なぜか今頃になって

すぐ左のプロフィール欄に、twitterのアドレスを記載しました(ツイート少なめですが…)。

『人魚姫』

      CCF_000010.png

2016年  中国・香港  監督・脚本:チャウ・シンチー  出演:ダン・チャオ、リン・ユン、キティ・チャン、ショウ・ルオ ほか
現在、各地で上映中  公式サイト→http://www.ningyohime-movie.com/


20年ほど前に『0061 北京より愛をこめて!?』(94)を観て、主演&共同監督のチャウ・シンチーにすっかり魅了された私。
以後、ずっとシンチーを追いかけています。

彼はその後もしばらく「主演&誰かとの共同監督」というスタイルを続けていましたが、やがて「主演&単独での監督」になり。
またしばらくそれを続けたのち、『西遊記~はじまりのはじまり~』(13)では監督業に専念。
今回の『人魚姫』でも出演はせず、監督に専念しています。

で、この『西遊記』と『人魚姫』の両方、つまりシンチーが監督に専念した2作品にメインの役で出演しているのが、ショウ・ルオ。
おそらくシンチーは、ショウ・ルオを高く評価していて、喜劇俳優として大きく育てたいと思っているのでしょう。

ショウ・ルオもその期待に応えて、そ~と~頑張っています。
彼はもともとアイドルとして人気があったらしく(なるほど顔立ちはキュートなイケメン)、歌やダンス、俳優業など多方面で活躍、今では「アーティスト」と呼ばれるような存在。
そんな彼が、『西遊記』では「空虚王子」という珍妙な役を演じ、今回の『人魚姫』では、また違った珍妙さを持つ「タコ兄」を、熱演・怪演しています。

『人魚姫』は、「悪徳実業家による環境破壊で行き場を失った人魚族が、その実業家の暗殺を企て‥」というストーリーで、ショウ・ルオ演じるタコ兄は、人魚族のリーダー。
人魚なのになぜか下半身がタコで、上半身は貝殻で作った飾り(?)を着用、頭は金髪の編み込みヘア。

この外見だけでもかなり強烈なのに、派手なギャグをいろいろとかましてくれて(特に鉄板焼きのシーン)、実になんというか激しい役です。
ショウ・ルオ、『西遊記』では青白い二枚目だったのに、今回は体をムキムキに鍛えてワイルドな兄貴になりきり、顔面の筋肉も鍛えたのか、ものすご~く顔を歪ませたりします。
でもイラストに描いたように、驚いて目を丸くした時は急にアイドル風な可愛い顔になったりして、まあ忙しい。

なんかショウ・ルオのことばっかり書いてますが、他の役者さんも皆いいですよ~。
悪徳実業家役のダン・チャオは、気持ち悪いダンスが最高。
人魚姫役の新人女優リン・ユン、かわいい(若い頃のスー・チーにちょっと似てるかも)。
警官役のリー・ションチンは近年のシンチー映画によく出ている人で、すごく特徴のある顔をしていて、それだけでも面白いのですが、今回はイラストを使ったギャグが炸裂!
あと、ツイ・ハーク監督が脇役でちょっと出演していて、相変わらずカッコいい。

さて肝心の作品自体は。
風刺的な内容もありつつ、ファンタジーやラブストーリーの要素もあり、そしてやはりシンチーなので、基本的にはコテコテのコメディ。
コントのような場面が多いのですが、決して「コントの羅列」にはならず、ちゃんと「映画」になっています。
ギャグを大事にしつつも、全体を貫くストーリーや人物の感情の流れも大事にしている。
シンチーの映画は昔からそうですが、今回改めて、そのことを強く感じました。

ところでこの映画、主題歌もすごくいいです(特に「ウッ! ハッ!」という掛け声が)。
日本版の予告編にはこの主題歌が使われてないので、こちらのMVをどうぞ→
https://www.youtube.com/watch?v=0Qrd9z0J2gM

『無垢の祈り』

    CCF_000007.png

2015年  監督・脚本:亀井亨  出演:福田美姫、BBゴロー、下村愛、サコイ、綾乃テン、奈良聡美、YOSHIHIRO、幸将司、高井理江、シゲル、三木くるみ、河嶋遙伽、平山夢明

■渋谷アップリンクにて上映延長中、宮崎シネマ館にて11月14~18日再上映
■シネマスコーレ(名古屋)にて2017年1月上映予定、松本CINEMAセレクトにて2017年2月上映予定、京都みなみ会館にて2017年上映予定
公式サイト→http://innocentprayer.s2.weblife.me/


先週、渋谷アップリンクにて鑑賞。
この映画について、原作者で出演もしている平山夢明が、初号試写を観てこう言ったそうだ。
「もう少し手加減しないと、観て死ぬ人が出るなと思った」。

なるほど、主人公の10歳の少女・フミ(福田美姫)は、学校ではいじめられ、通学路では小児性愛者に狙われ、家では義父(BBゴロー)と実母(下村愛)に虐待されている。
暗く辛いストーリーだ。
しかも、フミが会いたいと願うのは連続殺人犯で、その彼のグロテスクな犯行シーンもある。
また、直接的な描写ではないが、義父による性的虐待のシーンもある。
観て強い衝撃を受ける人がいても、まったく不思議ではない。

しかし私の場合、ある程度内容を知ったうえで観に行ったせいか、それほど凄い衝撃‥というのは無かった。
(ただラストで、タイトルの「無垢の祈り」の本当の意味が分かったときは、衝撃というよりも、ひどく悲しくて泣きそうになった。)

さらに言えば、この映画、たしかに観て辛くなる要素は多いものの、意外に(?)観やすくするための工夫もされていると思う。

例えば、先に述べた「学校でのいじめ」は、直接的には描かれない。
(もし、学校で同級生に嫌なことをされている描写などがあったら、この映画全体がもっと息苦しいものになっていたはず。)
そして、フミがひとりで自転車を走らせるシーンが多く、これが何だか開放的というか、観ていて少しホッとする。

また、フミは川崎あたりに住んでいるという設定らしく、川崎の工業地帯がたびたび映し出されるのだが、その夜景がとても幻想的で美しい。
児童虐待など現実的な内容の映画なのに、この夜景カットのおかげで、ダーク・ファンタジーのような雰囲気も生まれている。

ダーク・ファンタジーといえば、先述した「性的虐待の直接的でない描写」、これもやや幻想的か。
ただこの描写は、非常に辛い体験をした人が陥る、ある特殊な心理状態のメタファーとも受け取れるので、安易に「幻想的」などと言ってはいけないのかもしれない。

そう、やっぱり重い映画であることは確かだ。
性的虐待や暴力だけでなく、精神的な虐待も描かれていて、こちらはかなりリアルに表現されている。
例えば、義父がフミに延々と奇妙な説教をするシーン。
おかしな理屈で偉そうに喋りつづけるわけだが、こういう、相手をやたら支配したがる、支配欲の異様に強い人のイヤ~な感じが、よく出ていた。

というわけで、いろいろと見応えのある映画だった。
しかし、ひとつだけ気になったことがある。
主演の福田美姫ちゃんは撮影当時9歳だったそうだが、わずか9歳の少女に、芝居とはいえこういう状況を経験させていいのか? ということ。
どうか美姫ちゃんが今後生きていくうえで、この映画にまつわる思い出が、何かの糧になりますように。

最後に、イラストについて。
劇中のフミは前髪が長く常に顔が隠れ気味で、つまり、美姫ちゃんの顔がよく分からず‥。
場面写真を参考にしつつも、かなり自分のイメージで描いてしまった。
たぶん、似てない‥。


   ◆◆◆◆◆ 追記(11月17日) ◆◆◆◆◆

(最初に記事をアップした時、本当は他にも書きたいことがあったのですが、内容が主観的・個人的すぎると思い、やめました。でも日が経つにつれ、やっぱり書きたくなったので、書いておきます。)

『無垢の祈り』を観た時、さほど強い衝撃を受けなかったのは、先日書いたような理由によるものだが、実はもうひとつ、非常に主観的な理由があった。
それは、「安らぎを感じたから」。
私はこの映画に対して、奇妙な安らぎのようなものを感じたのだ。
特にラスト。
「ひどく悲しくて泣きそうになった」のは事実だが、それと同時に、なぜか安らぎのようなものも感じた。

主人公フミは、義父だけでなく実母にも(おそらく)絶望し、フミの悲痛な「祈り」と「叫び」で映画は終わる。
それを観ていて、悲しいと同時に、「ああ、絶望してもいいんだ」と思った。
この「絶望してもいい」という感覚が、私にとっては、ある種の安らぎなのかもしれない。

私自身は、フミのような過酷な環境で育ったわけではない。
現実にフミのような人はたくさんいて、その人たちに比べれば、はるかに恵まれた環境だったと思う。
しかし、どうしても受け入れがたいことがあり、10歳かそこらで、父親と良好な関係を築くことを諦めた。
絶望というほど激しいものではなかったが、それに近い気持ちも少しはあったかもしれない。

そういえば、今ふと気づいたのだが。
昔から、子どもを主人公にした作品で、私が惹かれるものは、たいてい「10歳かそこらの子どもが親と決別する(せざるをえない)」という内容だ。
例えば萩尾望都の『訪問者』とか、ダルデンヌ兄弟の『イゴールの約束』とか。
そして今回、『無垢の祈り』が加わった。

『無垢の祈り』の場合、「親と決別」という内容ではないのかもしれない。
客観的に見れば、違うのかもしれない。
しかし私の勝手な解釈では、あれは、「実母と決別する話」だ。
原作小説よりも映画のほうが、さらにその色が濃くなっていると思う。


それと、もうひとつ。
私は先日、「わずか9歳の子どもに、芝居とはいえこういう経験をさせていいのか?」と書いた。
この思いは、今も変わらない。
そして、この思いは、一般的なモラルや倫理とは関係ない。個人的なものだ。

私の場合、さほど大したことでもないのに、10歳頃のその経験が、成人後の自分に微妙に悪影響を与えていて、未だに完全には克服できてない。
だから、いくら芝居であっても、9歳で強烈な経験をしてしまうとどうなるのだろう‥‥と、ちょっと心配になってしまうのだ。

もちろん、監督はじめスタッフ・キャストの皆さんが、撮影時には充分配慮をされただろうし、その後もケアをされているはずなので、余計な心配だとは思う。
というか、余計な心配であってほしい。

結局、この映画にはとても惹かれるけれど、同時に少し疑問も感じる。
かなり矛盾した話だが、これが私の正直な感想だ。

『舐める女』

         CCF_000006.png

2016年  監督:城定秀夫  脚本:長濱亮祐・城定秀夫  出演:七海なな、青山真希、富沢恵、木下桂一、沢村純、麻木貴仁、森羅万象 ほか

※この映画のR18版『汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり』が、9月16日から1週間、シネロマン池袋で上映されます。
詳細はこちら(クリックするとセクシー画像も出てきます、ご注意を)。
http://cineroman.blog92.fc2.com/blog-entry-597.html


先月テアトル新宿で観た『舐める女』(R15)がとても面白かったのですが、1回しか上映されず、観逃した方も多いのでは‥と思っていたところ、R18版がシネロマンで上映されることに。
で、それに合わせて記事をアップすることにしました。


カオル(七海なな)は男性の汗の匂いで興奮する、匂いフェチの主婦。
特に夫の輝彦(木下桂一)の匂いが大好きなのだが、彼は極度の潔癖症で、超キレイ好きなので、ほとんど石鹸の匂いしかしない。
とにかく何でも清潔にして、規則正しい生活をする輝彦。

そんな彼との生活でストレスがたまったカオルは、近所のグラウンドなどで、汗をかいた男たちの衣類をこっそり盗んできて、自慰行為に耽っていた。

ある日、カオルが汚れた床をティッシュで拭いてトイレに流していると、トイレの水が逆流しはじめる。
慌てて修理業者を呼ぶと、やってきたのは、汗っかきの青年・浅野(沢村純)。
カオルは思わず、彼の汗ふきタオルをバスルームに持ち込み、自慰行為に及ぶ。
その姿を見てしまう、浅野。
2人は深い仲になり、頻繁に会うようになった。

一方、輝彦は取引先の西岡(森羅万象)の接待として、上司(麻木貴仁)に連れられSMクラブへ。
最初は嫌がっていた輝彦だが、女王様・美香(青山真希)の調教を受けるうち、だんだん快感を覚え、美香のもとへ通い詰めるようになるのだが‥‥。


というわけで、あらすじを書きましたが。
このあらすじだけだと、「ちょっと暗くてインモラルなエロ映画」をイメージする方が、いるかもしれません。

でも実際は、「明るくコミカルなエロ映画」です。
ヒロインの匂いへの執着や夫の潔癖症っぷりが、あくまでも明るく描かれているし、いろいろと細かいギャグも仕込んであって、笑えます。
ちなみに私が特に好きなギャグは、「お茶と牛乳」です(観れば分かります)。

しかもこの映画、「道徳的」とまでは言いませんが、最終的にはけっこう「いい話」になります。
いわゆるインモラルな映画、ではありません。

で、そういう感じを表現したくて、上のイラストを描いてみました。
この映画の場合、いつもの私の絵のタッチでは違和感があるな~と思い、ウームと考えていたら、パッとこういう絵が浮かんだのです。

最後に。
舞台挨拶での監督の発言によると、この映画、真冬の非常に寒い時期に、2日半で撮影したそうなのですが。
全くそういう風には見えません。
画面の中は完全に真夏で、猛暑で、誰もが自然に汗をかいている感じです。
作品自体の面白さはもちろんのこと、低予算・短期間の撮影でもきちんと季節感まで演出している、その点にも敬服します。

あと、もうひとつだけ。上映館について。
今回、成人映画館での上映なので、「観たいけど行きづらい」という方もいると思います。特に女性は。
私自身(中年の女です)、たまに成人館に行っていて、特に酷い目に合ったことは無いものの、色々あって作品に集中できない時もあるので、無理にオススメするつもりはありません。

ただ今回のシネロマン池袋の場合、「夫婦・カップル割引」というのがあって、男女ペアで同時入場すれば、年齢に関係なく2人で2000円になります。
この割引を使って、男女2人とか4人とかで行くと、ある程度は行きやすいかもしれませんね。

マンシク(と、イクチュン)

        CCF_000003.png

前の記事に書いたような経緯で、しばらくは女優さんのイラストを描こうと思っていたのですが。
少し前に、某かわいい女優さんを描いてみたら、どうもうまくいかないというか、ちょっと怖い感じになってしまったので、やっぱりオッサンを描くことにしました。

そのうちまた女優さんにチャレンジするかもしれませんが、その時は、かわいい人ではなく、「怪しげな美女」とか、そっち系の人を選ぶつもりです。

で、まあ、今回は、チョン・マンシク。
この人、前からちょっと描いてみたかったのです。
劇画チックで、くっきりハッキリした豪快な顔。
(ちなみに今回のイラストは、役を演じている時の顔ではなく、比較的最近の、記者会見での顔。)

この顔を初めて見たのは、たぶん、『息もできない』(製作・監督・脚本・編集・主演=ヤン・イクチュン)。
マンシクは、主人公の兄貴分というか、主人公が働いているヤクザ事務所(?)の所長みたいな役を演じていました。
以前読んだマンシクのインタビュー記事によると、この映画がキッカケで、色んな監督からオファーが来るようになったのだとか。
イクチュンに足を向けて寝られないねー。

その後はもう大活躍、主役や準主役はまだあまり無いものの、それ以外での出演はやたらと多い。
私が観た映画でも、『生き残るための3つの取引』、『哀しき獣』、『ベテラン』、『インサイダーズ 内部者たち』などなど。
しかも、今挙げた作品群と『息もできない』、ぜんぶ面白い。
作品に恵まれている‥というか、本人の仕事の選び方がいいのかもしれませんね。

『息も‥』を観た当時の自分の感想を読み返してみると、エラソーに批判していますが、これは多分、かなり気に入ったからこそ、あえて文句を付けたんじゃないかと‥‥。今となっては、いい印象が残っている映画です。)

そして、今後のマンシクの出演作で期待しているのは、『隻眼の虎』と『阿修羅』。
『隻眼‥』は、例のチェ・ミンシクと大杉漣が共演した大虎映画(日本版の予告編はこちら)。
『阿修羅』は、まだ韓国でも公開されてないし、日本で上映されるかどうかも分からないのですが、この記事を読んだかぎりでは、面白そうだなーと(記事に載ってるポスターもいい)。

ところで、ヤン・イクチュンって、その後、監督はしてないですよね。
また映画撮ってほしいなあ。
そしてその時は再び、マンシクをキャスティングしてほしい。

余談ですが、イクチュンが主演の日本映画、今まさに東京とその近郊で撮影中(10月まで)。
どうやら大勢のエキストラが必要らしく、大募集しているようなので、興味のある方は参加してみては?

『忘れじの面影』

            CCF_000001.png

1948年  アメリカ  監督:マックス・オフュルス  脚本:ハワード・コッチ  出演:ジョーン・フォンテーン、ルイ・ジュールダン、マディ・クリスチャンス、マルセル・ジュルネ


先日、知人の男性から、このブログのイラストについて、「なぜかオヤジが多いですね、若くて可愛い女優も見てみたい」というようなご意見をいただきました。

私は映画を観る場合は、古今東西の色んな作品を観たいと思うほうなのですが。
イラストを描く場合は、「東洋人の、ややコワモテの(クセのある)男優を描きたい」という気持ちが強く、ついそういう人を多めに選んでしまうのです(まあ基本的に、ジョニー・トーのノワールものとかが好きな人間なので‥‥。)

といっても、それ以外の人を描きたくないわけではないし、たしかにこのブログのイラストはちょっと偏り過ぎなので、このへんで女優さんを登場させよう~と考え始めました。
さらに最近の気分として、アメリカの古い映画を観たいと思っていたところ、シネマヴェーラでピッタリの特集が!

「ジョージ・キューカーとハリウッド女性映画の時代」。
で、観てきました、『忘れじの面影』と『旅愁』。
両方ともジョーン・フォンテーンが主演ですが、この方、昔のハリウッド女優としては、容姿がちょっと地味というか。
美人ではあるものの、やや控えめ・あっさりめな顔立ちで、ゴージャスさやセクシーさは、あまり無い。

でも、その持ち味が活かされています。特に『忘れじの面影』では。

この映画で彼女が演じているヒロインは、少女のころ知り合った男性に恋をし、ずっと思い続け、のちに彼と再会し、彼には忘れられていたけれど、2人で楽しく夜を過ごし結ばれて、でも捨てられて、また再会するものの、また忘れられていて‥‥という、やたら彼に忘れられるヒロイン。

そう、彼女の、「美しいけどちょっと地味で、強い印象が無い」という持ち味が、このやや極端なストーリーに説得力を持たせている‥ような気がします。

さらに「彼」役のルイ・ジュールダンは、いかにも押しの強そうな濃いめの二枚目で、「彼女にとっての、忘れられない男」という役柄に、とても合っています。

ところで、さきほどこの映画のストーリーを説明した時、ちょっとコミカルな感じで書いてしまいましたが、この映画自体は、あくまでも「哀しいメロドラマ」でして。
実際には、「彼との間にできた子供が幼いうちに死んでしまう」など、悲劇的な要素もいろいろ入っています。

ただ、あの「やたら彼に忘れられる」という部分は、そこだけ取り出すと、やはりちょっと極端というか、強引というか、一歩間違うとコミカルになりそうな感じ。

でも、そういう極端な要素をあえて投入するからこそ、「哀しいメロドラマ」がググッと盛り上がるわけだし‥‥。
例えばメロドラマで「やたらと、すれ違いが何度も続いて、なかなか会えない」という展開のものがありますが、これなども、「ちょっと極端(強引)だけど、あえてやりました!」ということなんでしょうね。

『バット・オンリー・ラヴ』と『夢の女 ユメノヒト』

『バット・オンリー・ラヴ』
2015年  監督・脚本:佐野和宏  出演:佐野和宏、円城ひとみ、酒井あずさ、蜷川みほ、芹澤りな、柄本佑、飯島洋一 ほか

現在、上映中  公式サイト→http://www.but-only-love.com/

『夢の女 ユメノヒト』
2015年  監督:坂本礼  脚本:中野太  出演:佐野和宏、伊藤清美、和田華子、西山真来、小林節彦、川瀬陽太、吉岡睦雄、櫻井拓也、伊藤猛 ほか

現在、上映中  公式サイト→http://www.interfilm.co.jp/yumenohito/


今回、イラストはナシです。
以前、佐野和宏さん(今より少し若い頃の)を描いて載せたことがあるので

さて、佐野さんが18年ぶりに監督業に復帰し自ら主演も務め、さらに坂本礼監督の新作にも主演している‥というのは前々から聞いていたのですが、その2本が今、上映中。
先日、観てきました。

まずは、監督&主演の『バット・オンリー・ラヴ』。
ガンで声を失くした男。
過去には複数の愛人がいたりもしたが、病気をしてからは、まるで生まれ変わったかのように、妻と仲良く穏やかに暮らしている。
ところがある日、娘が自分の実の子ではないと知り‥‥。

つぎに、坂本礼監督の『夢の女 ユメノヒト』。
福島で生まれ育ち、10代で地元の精神病院に入院した男。
震災と原発事故で避難中、とっくに病気が治っていることが分かり、約40年ぶりに外の世界へ。
さらにガンで声を失った彼は、(遠い昔にお金を払ってした)初体験の相手に会いたくて、東京に向かう‥‥。

つまり、この2本の映画での佐野さんの役柄は、(ご本人の現状である)ガンで声を失ったということ以外は、きわめて対照的なのです。
『バット‥』の男は、結婚していて子どもがいて、元愛人がいて、酒と煙草が大好きで。
『夢の‥』の男は、女性にほとんど縁が無く、家庭を持ったこともなく、酒も煙草もやらない(やれない)。

この対照的な2人の男を、佐野さんは、表情と身体表現だけで見事に演じています。さすがです。
と褒めたものの、実は、『バット‥』のほうの芝居(というかご自身に対する演出)には、少し疑問を感じます。

主人公の、傷つき方。
彼は、傷ついた時や思いつめた時、声にならない声で叫んだり、延々と走り続けたり、わりと「絵になる」ことをするんですよね‥‥。

「人前では虚勢を張って、絵になることをする」のなら分かりますが、ひとりの時でも、なんだかいつも、ある程度の「カッコよさ」を保ってしまっている。
ひとりの時ぐらい、もっと無様に、みっともない感じで泣いたりしてほしい。
でないと、この主人公の辛さが今ひとつ伝わってこない。と、私は思います。

実はこのことは、昔からちょっと気になっていました。

私の佐野作品との出会いは20年ほど前で、まず、彼の監督作品のほとんどを占める「監督し出演もしている映画」を何本か観たのですが、惹かれながらも同時に、苦手意識も持ってしまいまして。
さっき書いたような、カッコつけてるというか、やや自意識過剰な感じに、どうしても違和感があって。
だからその後、監督作品はほとんど観てないです。

それに対して、出演作(ご自身で監督してないもの)は、ピンク映画を中心に、一般映画や学生の卒業制作映画など、いろいろ観てきました。
他の監督の映画に出ている時の佐野さんは、自意識みたいなものが全く感じられず、役柄の人物に没入しきっているように見えて、そういうところが本当に素晴らしいと思うのです。

今回の『夢の‥』でも、おどおどした冴えない初老の男性に完全になりきっていて、それゆえに、その冴えない男性が、とても愛おしい存在として輝いています。

ちなみにこの映画では、相手役の伊藤清美さんも素晴らしいので、2人が揃っているシーンは、すなわち名シーン。
特にクライマックスの、伊藤さんが佐野さんに延々と語りかけるラブシーン。
この長台詞の内容もすごく良くて(脚本は中野太氏)、観ていてウーッと泣いてしまいました。
あと、あのカラオケのシーンも、たまらん。

というわけで。
この文章を書いていて、自分が佐野さんの出演作ばかり追いかけ監督作をあまり観てない‥という事実に、改めて気づきました。
普段は全然、意識してなくて。

意識してないからこそ、先日、映画館のロビーで佐野さんをお見かけした時、長年のファンです~みたいなことを言って、握手していただいたのですが。
今考えると、私のような人間が握手していただくなんて、失礼なことをしてしまいました‥‥反省しております‥‥。

『ディアーディアー』

          CCF20160405.png

2015年  監督:菊地 健雄  脚本:杉原 憲明  出演:中村 ゆり、斉藤 陽一郎、桐生 コウジ、山本 剛史、松本 若菜、柳 憂怜、政岡 泰志、佐藤 誓、染谷 将太 ほか
各地で上映中  公式サイト→http://www.deardeer-movie.com/index.html


数日前に新文芸坐にて鑑賞。
タイトルの『ディアーディアー』は、英語で書くと「Dear DEER」。「親愛なる鹿」。

子供の頃、幻の鹿「リョウモウシカ」を発見して一躍時の人となったものの、やがて目撃は虚偽とされ、「うそつき」のレッテルを貼られた三兄妹。
それから二十数年後。
長男の富士夫(桐生コウジ)は家業を継いだものの莫大な借金を背負い、次男の義夫(斉藤陽一郎)は精神を病んで病院暮らし、末娘の顕子(中村ゆり)は駆け落ちの果てに酒びたりの生活。
父の危篤をキッカケに、三兄妹は久しぶりに再会するのだが‥‥。

劇中で、義夫の精神疾患は「シカ事件」が原因、ということになっている。
が、三兄妹の父親はかなり暴力的な人(子供を殴る)だった‥とも語られるので、義夫の病気も顕子のアルコール依存も、まず父親に原因があったと思われる。
たぶん、そのあたりの(父の)事情も含めての「シカ」なんですね。

だから三兄妹は、死にゆく父と、「シカ事件」と、両方に改めて向き合うことになる。

この映画、まず冒頭にアニメで「シカ事件」の説明があり、その後は実写で、三兄妹の再会→父の見舞い‥と進んでいくのだが、この序盤での桐生コウジが本当に素晴らしい。
弟や妹や町の人たちなど、常に全方位に気を遣い、常に穏やかに微笑み、でも心の底に鬱屈を溜めこんでいて、いつか爆発しそうな感じ。
そういう富士夫の感じを、実にうまく表現している。

「あ、このお兄さん、いつか爆発する‥‥爆発する‥‥」って、観てていきなり緊張しましたもん。
つまり序盤でもう、ググッと入り込んだわけです。

この映画のプロデューサーでもある桐生氏、彼の存在はとても大きいと思います。
といっても、もちろん、彼の仕事だけが突出している‥という意味ではなく。
脚本、演出、他の役者さんたちの芝居など、色んな要素がかみ合って、序盤からラストまで、ずっと入り込んだまま観ることができました。

脚本といえば、こういう、わりと地味な内容をオリジナル脚本として面白く書くのって、多分すごく難しいことだと推測するのですが、まだ30代の杉原憲明氏、うまいですね。

そして監督の菊地健雄氏も30代、しかもこれがデビュー作。
といっても、これまで色んな監督のもとで助監督を務めていたせいか、あまり新人らしくなく、早くも熟練の境地というか、すでに「過不足ない」という感じ。

彼の、「過不足ある」作品も観てみたいです。
一観客の勝手な願望としては。

『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』

                 CCF20160129.png

2014年  中国  監督・脚本:ツイ・ハーク  出演:チャン・ハンユー、レオン・カーフェイ、ケニー・リン、ユー・ナン、トン・リーヤー、ハンギョン
(公式サイトは、こちらです


1週間ほど前にシネマート新宿にて鑑賞。
80年代から監督やプロデューサーとして活躍し続けている香港の巨匠、ツイ・ハークが中国で撮ったアクション大作。

ハーク監督は昔から、お金も手間もかかるアクション系の大作を得意としていますが、今の香港映画界はやや衰退ぎみなので、そういう作品はなかなか作れず。
となると、今の中国に活動の場を移すのは自然なこと。

しかし。ご存知の通り、中国には検閲があり、映画の内容は色々と規制されています。
特に政府批判は絶対×で、その逆は◎。

例えば、この映画は1946年の国共内戦時代を舞台にしていますが、検閲の当然の結果として、共産党軍はかなり英雄的に描かれています。
そもそも、あらすじ自体が、「共産党軍の少数精鋭部隊が、東北地方を荒らす残虐な匪賊(ひぞく)の大軍に立ち向かう」というプロパガンダ的なもの。

ただし、そこはツイ・ハーク。
アクションとともに得意とする「ファンタジックな描写」をバンバン繰り出し、単なるプロパガンダ映画とは、ひと味もふた味も違う作品に仕上げています。
あるていど現実的な描写もあるものの、劇画的・幻想的な演出も多用しているので、なんだか架空の国の物語みたいな雰囲気もあったりして。

(この辺りのことについては、ライターの藤本洋輔氏が詳しく述べてらっしゃるので、こちらをどうぞ。他の香港映画人の中国での検閲対策についても、書かれています。)

ただ、私の個人的な思いとしては‥‥やっぱりそれでも少々プロパガンダの匂いがするので、それが残念だなあ、と。

この映画に限らず、例えば(藤本氏も言及している)ジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』。
トー監督らしさは充分発揮されているものの、公安の描き方などが、やはり少々プロパガンダ的。

まあ、そのへんは、なるべく気にしないようにして観るしかないのかも。
もちろん、将来的に中国の検閲や言論統制が無くなる(緩くなる)ことを願いつつ。

ところで、今回は俳優でなく監督のイラストを描きました。
ツイ・ハーク監督、顔もスタイルもなかなか良いし、独特の雰囲気があって、まるで役者かシニアモデルみたい。
「徐克」(ツイ・ハークの漢字表記)で画像検索すると、いい写真がいっぱい出てきます。ファッション誌の表紙やグラビアにもけっこう登場している模様。

あと、彼は絵も上手いです。
まあホント、凄い人ですわ。

『GONIN サーガ』

               CCF20151017.png

2015年  監督・脚本:石井隆  出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信、根津甚八、鶴見辰吾、佐藤浩市、竹中直人 ほか
現在、全国各地で上映中(公式サイト→http://gonin-saga.jp/


約20年前の『GONIN』の続編。前作で殺された男たちの遺族が、復讐に燃える話。

序盤は、前作の内容や人間関係の説明が多く、どうもあまりピリッとしない。
が、本筋の復讐譚が始まってからは、異様な緊迫感・緊迫感・緊迫感‥‥ラストまで。
しかも、時々ウッと泣きそうになったり呆然としたり、(いい意味で)観ていて疲れました。

まあ、石井隆監督の映画はだいたい観ていて疲れるのですが、今回は序盤がちょっと緩かった分、その後の緊迫感をより強く感じたのか、いつも以上に疲れたというか。
自分の何かを吸い取られたような気がします(これは褒め言葉です)。

ところでツイッターに、「更なる続編にはアンソニー・ウォン演じる香港マフィアも登場させて」みたいなことを書いたわけですが、この発想はどこから来たのかというと、つまり、ジョニー・トーです。

観ていて、ちょっとジョニー・トーのノワール諸作を連想したのです。
(雑誌にそういうことを書いているライターさんもいたので、同じように考えている人はけっこういると思います。)

もちろんトー作品よりもこの映画のほうが女性が前面に出ているし、その他いろいろ違うところもあるのですが、それでも何か通じるものを感じるんですよね。
激しいガン・アクションに情(あるいは情念)が宿っているあたり、かなあ。
そのうち、どこかの名画座で「石井隆&ジョニー・トー特集」やってほしい‥‥。

最後になりましたが、今回のイラストは森澤慶一(柄本佑)。
『GONINサーガ』の登場人物の中で、いちばん怖い人(だと私は思う。)
いちばん静かで動きも叫びも少ないのに、ものすごい執念を抱えているし、妙に大胆。
そういう人なので、意図的に、やや怖い感じに描きました。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク