『人魚姫』

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2016年  中国・香港  監督・脚本:チャウ・シンチー  出演:ダン・チャオ、リン・ユン、キティ・チャン、ショウ・ルオ ほか
現在、各地で上映中  公式サイト→http://www.ningyohime-movie.com/


20年ほど前に『0061 北京より愛をこめて!?』(94)を観て、主演&共同監督のチャウ・シンチーにすっかり魅了された私。
以後、ずっとシンチーを追いかけています。

彼はその後もしばらく「主演&誰かとの共同監督」というスタイルを続けていましたが、やがて「主演&単独での監督」になり。
またしばらくそれを続けたのち、『西遊記~はじまりのはじまり~』(13)では監督業に専念。
今回の『人魚姫』でも出演はせず、監督に専念しています。

で、この『西遊記』と『人魚姫』の両方、つまりシンチーが監督に専念した2作品にメインの役で出演しているのが、ショウ・ルオ。
おそらくシンチーは、ショウ・ルオを高く評価していて、喜劇俳優として大きく育てたいと思っているのでしょう。

ショウ・ルオもその期待に応えて、そ~と~頑張っています。
彼はもともとアイドルとして人気があったらしく(なるほど顔立ちはキュートなイケメン)、歌やダンス、俳優業など多方面で活躍、今では「アーティスト」と呼ばれるような存在。
そんな彼が、『西遊記』では「空虚王子」という珍妙な役を演じ、今回の『人魚姫』では、また違った珍妙さを持つ「タコ兄」を、熱演・怪演しています。

『人魚姫』は、「悪徳実業家による環境破壊で行き場を失った人魚族が、その実業家の暗殺を企て‥」というストーリーで、ショウ・ルオ演じるタコ兄は、人魚族のリーダー。
人魚なのになぜか下半身がタコで、上半身は貝殻で作った飾り(?)を着用、頭は金髪の編み込みヘア。

この外見だけでもかなり強烈なのに、派手なギャグをいろいろとかましてくれて(特に鉄板焼きのシーン)、実になんというか激しい役です。
ショウ・ルオ、『西遊記』では青白い二枚目だったのに、今回は体をムキムキに鍛えてワイルドな兄貴になりきり、顔面の筋肉も鍛えたのか、ものすご~く顔を歪ませたりします。
でもイラストに描いたように、驚いて目を丸くした時は急にアイドル風な可愛い顔になったりして、まあ忙しい。

なんかショウ・ルオのことばっかり書いてますが、他の役者さんも皆いいですよ~。
悪徳実業家役のダン・チャオは、気持ち悪いダンスが最高。
人魚姫役の新人女優リン・ユン、かわいい(若い頃のスー・チーにちょっと似てるかも)。
警官役のリー・ションチンは近年のシンチー映画によく出ている人で、すごく特徴のある顔をしていて、それだけでも面白いのですが、今回はイラストを使ったギャグが炸裂!
あと、ツイ・ハーク監督が脇役でちょっと出演していて、相変わらずカッコいい。

さて肝心の作品自体は。
風刺的な内容もありつつ、ファンタジーやラブストーリーの要素もあり、そしてやはりシンチーなので、基本的にはコテコテのコメディ。
コントのような場面が多いのですが、決して「コントの羅列」にはならず、ちゃんと「映画」になっています。
ギャグを大事にしつつも、全体を貫くストーリーや人物の感情の流れも大事にしている。
シンチーの映画は昔からそうですが、今回改めて、そのことを強く感じました。

ところでこの映画、主題歌もすごくいいです(特に「ウッ! ハッ!」という掛け声が)。
日本版の予告編にはこの主題歌が使われてないので、こちらのMVをどうぞ→
https://www.youtube.com/watch?v=0Qrd9z0J2gM

『忘れじの面影』

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1948年  アメリカ  監督:マックス・オフュルス  脚本:ハワード・コッチ  出演:ジョーン・フォンテーン、ルイ・ジュールダン、マディ・クリスチャンス、マルセル・ジュルネ


先日、知人の男性から、このブログのイラストについて、「なぜかオヤジが多いですね、若くて可愛い女優も見てみたい」というようなご意見をいただきました。

私は映画を観る場合は、古今東西の色んな作品を観たいと思うほうなのですが。
イラストを描く場合は、「東洋人の、ややコワモテの(クセのある)男優を描きたい」という気持ちが強く、ついそういう人を多めに選んでしまうのです(まあ基本的に、ジョニー・トーのノワールものとかが好きな人間なので‥‥。)

といっても、それ以外の人を描きたくないわけではないし、たしかにこのブログのイラストはちょっと偏り過ぎなので、このへんで女優さんを登場させよう~と考え始めました。
さらに最近の気分として、アメリカの古い映画を観たいと思っていたところ、シネマヴェーラでピッタリの特集が!

「ジョージ・キューカーとハリウッド女性映画の時代」。
で、観てきました、『忘れじの面影』と『旅愁』。
両方ともジョーン・フォンテーンが主演ですが、この方、昔のハリウッド女優としては、容姿がちょっと地味というか。
美人ではあるものの、やや控えめ・あっさりめな顔立ちで、ゴージャスさやセクシーさは、あまり無い。

でも、その持ち味が活かされています。特に『忘れじの面影』では。

この映画で彼女が演じているヒロインは、少女のころ知り合った男性に恋をし、ずっと思い続け、のちに彼と再会し、彼には忘れられていたけれど、2人で楽しく夜を過ごし結ばれて、でも捨てられて、また再会するものの、また忘れられていて‥‥という、やたら彼に忘れられるヒロイン。

そう、彼女の、「美しいけどちょっと地味で、強い印象が無い」という持ち味が、このやや極端なストーリーに説得力を持たせている‥ような気がします。

さらに「彼」役のルイ・ジュールダンは、いかにも押しの強そうな濃いめの二枚目で、「彼女にとっての、忘れられない男」という役柄に、とても合っています。

ところで、さきほどこの映画のストーリーを説明した時、ちょっとコミカルな感じで書いてしまいましたが、この映画自体は、あくまでも「哀しいメロドラマ」でして。
実際には、「彼との間にできた子供が幼いうちに死んでしまう」など、悲劇的な要素もいろいろ入っています。

ただ、あの「やたら彼に忘れられる」という部分は、そこだけ取り出すと、やはりちょっと極端というか、強引というか、一歩間違うとコミカルになりそうな感じ。

でも、そういう極端な要素をあえて投入するからこそ、「哀しいメロドラマ」がググッと盛り上がるわけだし‥‥。
例えばメロドラマで「やたらと、すれ違いが何度も続いて、なかなか会えない」という展開のものがありますが、これなども、「ちょっと極端(強引)だけど、あえてやりました!」ということなんでしょうね。

『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』

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2014年  中国  監督・脚本:ツイ・ハーク  出演:チャン・ハンユー、レオン・カーフェイ、ケニー・リン、ユー・ナン、トン・リーヤー、ハンギョン
(公式サイトは、こちらです


1週間ほど前にシネマート新宿にて鑑賞。
80年代から監督やプロデューサーとして活躍し続けている香港の巨匠、ツイ・ハークが中国で撮ったアクション大作。

ハーク監督は昔から、お金も手間もかかるアクション系の大作を得意としていますが、今の香港映画界はやや衰退ぎみなので、そういう作品はなかなか作れず。
となると、今の中国に活動の場を移すのは自然なこと。

しかし。ご存知の通り、中国には検閲があり、映画の内容は色々と規制されています。
特に政府批判は絶対×で、その逆は◎。

例えば、この映画は1946年の国共内戦時代を舞台にしていますが、検閲の当然の結果として、共産党軍はかなり英雄的に描かれています。
そもそも、あらすじ自体が、「共産党軍の少数精鋭部隊が、東北地方を荒らす残虐な匪賊(ひぞく)の大軍に立ち向かう」というプロパガンダ的なもの。

ただし、そこはツイ・ハーク。
アクションとともに得意とする「ファンタジックな描写」をバンバン繰り出し、単なるプロパガンダ映画とは、ひと味もふた味も違う作品に仕上げています。
あるていど現実的な描写もあるものの、劇画的・幻想的な演出も多用しているので、なんだか架空の国の物語みたいな雰囲気もあったりして。

(この辺りのことについては、ライターの藤本洋輔氏が詳しく述べてらっしゃるので、こちらをどうぞ。他の香港映画人の中国での検閲対策についても、書かれています。)

ただ、私の個人的な思いとしては‥‥やっぱりそれでも少々プロパガンダの匂いがするので、それが残念だなあ、と。

この映画に限らず、例えば(藤本氏も言及している)ジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』。
トー監督らしさは充分発揮されているものの、公安の描き方などが、やはり少々プロパガンダ的。

まあ、そのへんは、なるべく気にしないようにして観るしかないのかも。
もちろん、将来的に中国の検閲や言論統制が無くなる(緩くなる)ことを願いつつ。

ところで、今回は俳優でなく監督のイラストを描きました。
ツイ・ハーク監督、顔もスタイルもなかなか良いし、独特の雰囲気があって、まるで役者かシニアモデルみたい。
「徐克」(ツイ・ハークの漢字表記)で画像検索すると、いい写真がいっぱい出てきます。ファッション誌の表紙やグラビアにもけっこう登場している模様。

あと、彼は絵も上手いです。
まあホント、凄い人ですわ。

『クリミナル・アフェア 魔警』

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2014年  中国・香港  監督:ダンテ・ラム  脚本:ジャック・ン、ダンテ・ラム  出演:ダニエル・ウー、ニック・チョン、アンディ・オン、リウ・カイチー、クリスティ・チェン ほか
公式サイト→http://cmaf-makei.jp/
◆シネマート六本木、シネマート心斎橋にて上映中【心斎橋は2月27日(金)まで】
◆シネマスコーレ(名古屋)にて近日上映予定


1週間ほど前に、シネマート六本木にて鑑賞。
2006年に香港で起きた、警官が警官を殺害するという衝撃的な事件をヒントにして制作された映画。
ただし、この実際の事件は解明されていない部分が多いため、いわゆる実録映画ではなく、あくまでも、事件をヒントにして創作されたフィクションです。

ストーリーは‥‥孤独な警官デイブ・ウォン(ダニエル・ウー)が、武装強盗団のホン(ニック・チョン)に出会ってから情緒不安定になり、やがてそれが狂気にまで発展してしまい‥‥というもの。
実はデイブには幼少期の複雑なトラウマがあり、ホンとの出会いによって、そのトラウマがデイブを蝕むようになるのです。

非常に悲しく、やるせないストーリーなのですが、作品自体は、いわゆる「暗く地味な映画」ではありません。
というのも、アクションや爆破シーンがけっこう派手だし、主人公の心理がこれまた派手な視覚効果で表現されていたりするし。
ストーリー的にも色んな細かい要素が仕込んであって、グイグイ引っ張られます。

(まあダンテ・ラムの映画はいつも、色んな要素がギュウギュウ詰め込まれていて、「ちょっと詰め込み過ぎでは‥」と思わなくもないのですが、面白いからオッケーです。)

そして、映画自体が地味になってないもうひとつの原因は、主演のダニエル・ウーでしょう。

彼は、目が大きくハッキリした顔立ちで、背が高くてスタイルも良く。
もともとの容姿や雰囲気が、かなり華やかなんですね。
だから、暗く孤独な役をきっちり演じていても、どこかフワッとした華やかさが漂っている。
そしてそれが、映画自体の印象にも影響している。

というわけで今回は、ダニエル・ウーさんのイラストを描いてみました。

『新しき世界』

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2013年  韓国  監督・脚本:パク・フンジョン  出演:イ・ジョンジェ、ファン・ジョンミン、チェ・ミンシク、パク・ソンウン、ソン・ジヒョ ほか 
(今年前半に公開済、DVD出てます)

今年の2月に観てとても好きになった作品なので、もっと早く取り上げるべきだったのですが、どうにもイラストがうまく描けず、長いあいだ放置していました。
で、久しぶりにファン・ジョンミンを描いてみたら、相変わらず難しく、あまり良くできたとは言えないものの、サルっぽくて愛嬌のある感じはどうにか出せたと思うので、載せることに。

このジョンミン氏、決して美形ではないけれどブサイクでもなく、なんというか、親しみやすい庶民的な顔。
しかし、スラリとした長身でスタイルは良いので、そういう意味では、なかなかカッコイイ。いつか彼の全身像も描いてみたいです。

ちなみに彼、ミュージカルでも活躍しているらしいので、YOUTUBEでいろいろ動画を観てみたところ、歌も踊りもすごく上手い。
さらに、この『新しき世界』を含む何本かの映画から察するに、ものすごーく芝居も上手い。
もう、才能の塊みたいな人ですな。

あ、ジョンミン氏のことばっかり書いてしもた‥‥。
作品自体についても、少しだけ。

警官がヤクザ組織に潜入する、いわゆる潜入捜査モノのノワール映画。
非情な世界を描きつつも、最終的には強烈な「情」が表現されている。
そしてその「情」で結ばれる2人が、ともに韓国華僑であるという設定(私はこの映画によって、それまであまり知らなかった韓国華僑について、知ることができました)。
それからそれから、ジョンミンだけでなく、他の役者さんたちも皆、素晴らしかった。

この映画の監督・脚本を担当したパク・フンジョンは、以前ここで取り上げた『生き残るための3つの取引』の脚本を書いた人。
『生き残る~』もこの『新しき世界』も非常に惹かれるものがあるので、彼には今後、注目したいと思います。

『エレクション 死の報復』

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2006年  香港  監督:ジョニー・トー  脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン  出演:ルイス・クー、サイモン・ヤム、ニック・チョン、ラム・カートン、ラム・シュー ほか
※劇場未公開、DVDあり


黒社会組織の会長選挙を題材にした『エレクション』(2005)の、続編。
そしてこの『死の報復』も会長選挙の話なのですが、『エレクション』とはかなり違います。

簡単に言うと、『エレクション』が「香港黒社会」を描いているのに対し、『死の報復』は、「香港黒社会と中国警察の関係」を描いています。
もっと言えば、「香港と中国(政府)の関係」。

むかし三池崇史監督が、「やくざ映画というのは、現実の一般社会をやや極端な形で表現することができる」みたいな発言をしていて、「なるほどー」と思ったものですが。
『死の報復』は、まさにそういう映画。

当時(2006年頃)の香港社会に漂う不安を、黒社会に象徴させて表現している感じ。
だからこの映画を観ると、最近の香港での「雨傘革命」なども、実に自然な流れとして見えてきます。

ところで今回のイラストは、現会長のロク(を演じたサイモン・ヤム)。
ロクは、人前ではやたらニコニコしつつ、裏では邪魔者を次々に殺している冷酷な男。
そんな彼と、商売上手なジミー(ルイス・クー)が対立し、一方が勝者となるものの、その勝者はさらに大きな「力」に支配されていて‥‥。

具体的にどういうことなのか気になる方は、ぜひDVDを観てみてください。
特典映像のインタビューでは、ジョニー・トー監督らが制作意図などを語っていますよ。

あ、でも、ちょっとグロいシーンがあるので、グロが苦手な方にはオススメできません。

『地下室のメロディー』

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1963年  フランス  監督・脚本:アンリ・ヴェルヌイユ  脚本:ミッシェル・オーディアール、アルベール・シモナン  出演:ジャン・ギャバン、アラン・ドロン ほか

1週間くらい前に、北千住の東京芸術センターにあるシネマ ブルースタジオにて鑑賞。
ブルースタジオは、場所が遠いということもあって、今まで行ったことがなかったのですが、ちょうどその方面で用事があったので、帰りに寄ってみました。
料金1000円でスクリーンがかなり大きく、なかなか良かったです。
 
さて、『地下室のメロディー』。ストーリーを簡単に書くと。
老ギャングのシャルル(ジャン・ギャバン)と、チンピラ青年のフランシス(アラン・ドロン)が組んで、高級リゾートのカジノの地下室にある大金を強奪するが‥‥というもの。

(なお、WOWOWオンライン「町山智浩の映画塾」におけるこの作品の解説動画が、分かりやすくて面白いので、詳しい解説を聴きたい方は、そちらもどうぞ。)

でまあ、この作品、「サスペンスやアクションの演出において、後世の映画に多大な影響を与えた」と言われているわけですが。
個人的には、美形スターの演出の仕方も秀逸だと思います。この場合の美形スターは、もちろんアラン・ドロン。

まず映画が始まってしばらくは、ドロンが全く出てこない。ギャバンばっかり出てきて、ドロンが出てこない。
そうやってじらしておいて、やっと出てきます。ドロンの脚が。
最初は脚だけ。そしてしばらく待っていると、やっとあの顔が初めて映ります。
ここでファンの人たちは、「キャーッ」とか「ヒャーッ」とか言いたくなるでしょう。
(私自身は特にファンではないものの、「おお、やっと出た!」と言いたくなりました。)

そしてドロンはチンピラ青年・フランシスの役なので、最初はカジュアルなチンピラルックで登場するわけですが。
フランシスは犯罪計画遂行のため、「高級リゾートのホテルに滞在する金持ち青年」になりすますことになり。
その時点でファッションが激変します。もう高級スーツとか、タキシードとか、そんなのばっかり。
ドロンの美貌が、いっそう冴えわたります。
それにこの1本の映画で、カジュアルなドロンとフォーマルなドロン、両方楽しめるわけだし。

いろんな意味で、美形スターの見せ方が上手いな~、と感心。

ところでドロンは、ただの美形スターではありません。
よく言われることですが、彼は貧しい生い立ちで、俳優になるまでにさまざまな職業を経験していました。
先述の町山さんの解説によると、外人部隊にいたこともあるそうです。あと、私が昔読んだ何かの本では、裏社会にいたこともある‥と書かれていました。
まあとにかく、いろいろと修羅場をくぐってきたのでしょう。

だから美しいだけでなく、なんというか、ギラギラした妙な迫力や生命力がみなぎっている。
そんな感じを出したいな~と思いつつ、彼のイラストを描きました。

『生き残るための3つの取引』

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2010年  韓国  監督:リュ・スンワン  脚本:パク・フンジョン  出演:ファン・ジョンミン、リュ・スンボム、ユ・へジン、チョン・ホジン、マ・ドンソク、チョン・マンシク ほか

 数日前に、キネカ大森の韓国映画特集にて鑑賞。
 警察や検察の腐敗を題材にしていて、しかも結末にほとんど救いが無い作品。にもかかわらず、意外にそれほど暗くないというか、カラッと乾いた感触も残っています。

 なぜなのか、と考えてみると。
 まず、重め・暗めの内容でありながら、観ていて「ププッ」と吹き出してしまうような、「小さく笑える描写」が適度に入れてある、ということ。

 もうひとつは、主演2人のキャスティング&演技。
 ファン・ジョンミンとリュ・スンボムという、(おそらく)もともと明るさや軽快さを持った俳優が選ばれている。そして彼ら自身も、深刻になり過ぎない芝居をしている。

 ストーリー的には、ジョンミン演じる刑事は悲しい悪人であり、スンボム演じる検事はムカつく嫌な奴なんですが。キャスティングや演技によって、ふたり(刑事と検事)に、「滑稽さ」がかなり加わっているような気がします。

 ところで、今回のスンボムのイラストについて。
 彼、特にこういう表情の時は、吉岡睦雄に似てると思います。この手の顔って、見てると何となく描きたくなる。吉岡さんも、いつか描きます。

『ドラッグ・ウォー 毒戦』

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2012年  香港・中国  監督:ジョニー・トー  脚本:ワイ・ガーファイ、ヤウ・ナイホイ、リケール・チャン、ユ・スィ  出演:ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホァン、ウォレス・チョン、ラム・シュー、ラム・ガートン ほか
公式サイト→http://www.alcine-terran.com/drugwar/

 蟹江敬三さんが亡くなったので、蟹江さんの追悼記事も書きたいのですが、数日前からこの『毒戦』記事の準備をしていたので、とりあえずこちらを先に仕上げてアップしておきます。

 さて『毒戦』、実は観てからもうかなり日が経っています。全国的に、公開が終了したところも多いし。
 でも現時点で、地方ではまだ上映中のところもあるし、都内でも5月下旬にまた上映されるそうなので(下高井戸シネマ)、記事にしようかな、と。

 それにこの映画、日が経っても、けっこう印象に残ってるんですよ。まあジョニー・トーなので、ガン・アクションが派手でかっこいいとか色々あるんですが、とにかくスン・ホンレイ演じるジャン警部のキャラや捜査方法が独特で、魅了されました。
 キャラや捜査方法が独特といえば、やはりジョニー・トーの『MAD探偵 7人の容疑者』や『名探偵ゴッド・アイ』の主人公たちもそうでしたが、今回はまた別の独特さ。

 まずキャラに関して。例えば、ある銃撃戦での、ジャン警部の弾のよけ方。ちょっとビックリしました。車のアレをああいう風に使うとは‥‥。
 (未見の方は、何のことやらさっぱり分からないと思いますが、もし気になるようだったら、ぜひ作品を観てみてください。)

 そして捜査方法。麻薬組織の捜査をするにあたり、彼は、組織内の実在の人物(しかも複数)になりきって、潜入捜査します。「そんなこと、できるんかいな?!」と言われそうですが、色々あって、できるんです。
 こういうコメディ映画のギャグみたいなことを、(いちおう)シリアスな映画の中でやってしまうジョニー・トー、やっぱり面白いなあ。
 や、もちろん、この『毒戦』をコメディとして観る人がいたって、全然かまわないんですけどね。私自身も、ややコメディとして観たような気がするし。

 あと、個人的にツボにハマったのが、主役2人のキャスティング。捜査される側(麻薬組織の人間)を演じたルイス・クーと、捜査する側を演じたスン・ホンレイ。
 いいコンビです。
 
 このふたり、『強奪のトライアングル』でも共演していて、そのときも今回も、ひとまわりくらい歳が離れているように見えるんですが、実は同い年です。1970年生まれ。
 そしてふたりとも、経歴がちょっと異色。

 まずルイクーは、もとヤクザ。昔、谷垣健治さんがこの本の中で書いていました。
 谷垣さんによると、ルイクーは「まったく気どりがなくていいヤツ」、そして「あなどれない男」。なぜ「あなどれない」のかというと。事件や抗争の多いマカオでロケしたときでも、まったくビビることなく、ひとりでフラッとどこかに出かけたりしてたんだとか。
 なんか、かっちょいいなあ。

 で、ホンレイは、もとダンサー。日本でいえば「新劇出身の地味な演技派」みたいな顔をしているのに。意外ですよね~。ブレイクダンスのチームに所属していたそうです。
 たしかにYou Tubeで彼の動画をいろいろ見ていると、撮影の合間やイベントの時など、実にさりげなく踊っています。クルッとターンしたり、ブレイクダンス風の動きをしたり。
 これまた、かっちょいいなあ。

 ちなみにこのふたり、けっこう仲がいい、と聞いたことがあります。

『裏切りのサーカス』

2011年 イギリス・フランス・ドイツ 監督:トーマス・アルフレッドソン 脚本:ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン 出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ハーディ、キアラン・ハインズ、トビー・ジョーンズ、デヴィッド・デンシック、ジョン・ハート
公式サイト→http://uragiri.gaga.ne.jp/

 今年の4月末に劇場(TOHOシネマズ シャンテ)で鑑賞し、さらに先日DVDで再鑑賞。ひとことで言うと、大好きな映画。

 ただし最初に観た時は、ストーリーの細部に、やや分かりづらいところがありました(それでも充分面白かったけど)。その後、原作の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(ジョン・ル・カレ著)を読んでみると、噂どおり長くて複雑な小説で。
 つまり、そういう小説を約2時間の映画にしたわけだから、かなり省略したというか、凝縮したというか。結果的に、やや説明不足になったのかもしれません。
 しかし、その凝縮の仕方が効いている。

 原作はジャンルで言えばスパイ小説で、あらすじは、「英国諜報部(通称“サーカス”)の中にいるソ連のスパイを探し出す」というもの。映画のあらすじも同じ。
 だからこの映画もよく「スパイ映画」と呼ばれていて、たしかにそうなんですが、でも私はあえて言いたい。「これ、ゲイ映画ですよ」と。

 や、ゲイ映画といっても、男性同士のセックス・シーンはありません。しかしこの映画、結局のところ、ある2人の男性の関係が軸になっていて、しかも、その関係が友情ではなく恋愛だと匂わせるシーンがあるのです。
 そしてそのシーンは、終盤だし感情的にグワーッと盛り上がるところ。クライマックス・シーンと言ってもいいでしょう。

 この「2人の男性の関係」は、原作でも、ある程度メインの要素として描かれてはいるのですが、映画では、さらに強調され拡大された感があります。実際、先ほど述べたシーンは原作には無いし、その次のシーン(2人の関係の結末をハッキリと描いている)も、原作には無い、映画オリジナルのものです。
 つまり映画化するにあたって、原作にある色々な要素の中から、その「2人の関係」を最大の要素として選び、それを軸にして作品全体を再構築したのでしょう。その流れで他の要素、例えばスパイの手口やスパイを探す過程などは、あえて省略気味に描いたんじゃないかと。

 長く複雑な原作を映画化する場合、すべての要素を少しずつ短くしたのでは、どの要素も中途半端になり、全体的に薄味な感じになってしまいます。この映画のように、ある要素を強調・拡大して他の要素は短く、という思い切った改変が、やはり効果的なのでしょう。

 以上、おもに脚本(脚色)について書きましたが、この映画、演出・演技・音楽なども本当に素晴らしいです。
 音楽は特に、歌の使い方が上手い。例えば先述の(同性愛を匂わせる)シーンでも、ある有名な歌が流れていて、それがラストまで、いくつものシーンにわたって流れ続けるのですが、これがもの凄く情感豊かに作品を彩っていて。もう、思い出しただけでグッときます。
 あと構図とか色調とか映像の質感とか、とにかくイイし好きですね。私のツボにハマりました。

 最後に、役者さんではコリン・ファースが印象的。実はこの映画を観るまでは、彼に全く魅力を感じてなかったんですが、観たあと「コリンさんスイマセンでした!」と心の中で謝りました。それくらい良かった。なんか妙なフェロモンがモワッと出てましたよ、彼。
 さらにゲイリー・オールドマンは、大昔にファンだったけどその後ちょっと嫌いになって、でも今回見直した! とか、ベネディクト・カンバーバッチはかなり気に入った! とか、色々あるけど、このへんでやめときます。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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