『トウキョウソナタ』

2008年 日本、オランダ、香港  監督・脚本:黒沢清  脚本:マックス・マニックス、田中幸子  出演:香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、津田寛治、児嶋一哉、井川遥、役所広司   
現在上映中  公式サイト→http://tokyosonata.com/index.html

 1週間ほど前に劇場で観た『トウキョウソナタ』が予想以上に面白かったので、それについて書いておきます。

 黒沢清監督の演出にはいろいろ特徴がありますが、そのひとつは「人と人との間に漂う居心地悪い雰囲気を描写するのが妙に上手い」ということではないかと。例えば『アカルイミライ』(2003)では、その上手さが発揮されているシーンが多すぎて、観ていてやや苦痛を感じました。
 今回リストラや家庭不和が題材ということで、やはり見事なまでに居心地悪い雰囲気が延々と続くのかと危惧していたのですが、実際に観てみると、それは必要最低限に抑えられていて、むしろ笑える描写が目立ちました。もちろん「笑える」といっても、かなり黒い笑いですが。

 リストラされた竜平(香川照之)は妻や子供にそのことを隠したまま、同じ境遇の旧友・黒須(津田寛治)とともに、職探しや暇つぶしの日々を送っています。次男の健二(井之脇海)は両親に反対されたため内緒でピアノを習い、長男の貴(小柳友)は家族への相談なしにアメリカ軍入隊への準備を進め、やがて本当に入隊してしまいます。竜平と健二の秘密もバレて家庭が混乱するなか、妻の恵(小泉今日子)が家に1人でいるとき強盗(役所広司)が押し入ってきて‥‥。

 黒い笑いを主に担うのは、黒須(ダジャレではないです)。リストラされたことを妻子に隠すため、携帯電話の呼び出し音が頻繁に鳴るよう自分でセットしたり、竜平を会社の部下として家に招待したり。とにかくやることがいちいち過剰で可笑しいのですが、その可笑しさは狂気と紙一重。笑えるけれど実は、怖く哀しいキャラクターなのです。
 そして演じる津田寛治。彼のことは『人が人を愛することのどうしようもなさ』の時も褒めましたが、今回もイイです。携帯を操る手つきの空虚な華麗さなど、とても心に残ります。他の俳優陣も皆ハマリ役で好演。

※以下の文章では作品の結末に触れています。

 ところでこの映画は、ハッピーエンドなのかそうでないのか、人によって解釈が分かれる終わり方になっていると思います。おそらく根本的に、家族や人間関係というものを明るいイメージで捉えている人は「ハッピーエンドだ」と感じ、それ以外の人は「ハッピーエンドとは言えない」と感じるのではないでしょうか。ちなみに私は後者です。
 
 ただ作品自体は、やや「ハッピーエンドではない」方向に寄っているような気もします。いくつか理由はありますが、特に私が気になったのは、息子たちの関係性の描き方。夫婦や親子の会話シーンはあるのに、息子同士が言葉を交わすシーンは、最後まで無いのです。目で合図したり、スキンシップをしたりする描写も無かったと思います。作り手が意図的にそうしたのか、たまたまそうなっただけなのか分かりませんが、結果として、どこか冷たい後味が醸し出されています。
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サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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