『トリック・マスター』

1999年 香港 監督・脚本・出演:バリー・ウォン 出演:チャウ・シンチー、ニック・チョン、サンドラ・ン

 私は基本的に、脇でいい味出してる系の俳優さんが好きなのですが、香港の俳優に関しては、主演クラスのいわゆるスターさんにも惹かれます。理由はいろいろありますが、ひとつには、有名スターなのに凄く珍妙な役や嫌な役も積極的に演じていて、それが面白いからです。
 
 まず「スターなのに珍妙な役」の極端な例として、レオン・カーフェイが挙げられます。彼はかつて英仏合作の文芸映画『愛人/ラマン』でヒロインの相手役を演じましたが、それと同時期に香港のコメディ映画『黒薔薇VS黒薔薇』に主演し、激烈にキザ&ヘンな役をやっています。
 まあこの映画のカーフェイはいちいちおかしいんですが、私が一番強烈に覚えているのは、髪をセメントで固めて豪快に逆立てている姿。これ、撮影のとき本物のセメントを使ったのでは? と思うほど、悲惨かつ笑える状態になっていました。
 
 そして、「スターなのに嫌な役も積極的に演じる人」として私が真っ先に思い浮かべるのが、チャウ・シンチーです。シンチーといえば、日本では『少林サッカー』と『カンフーハッスル』が有名ですが、なにしろ香港では大スターなので他にもたくさん主演作があり、それらをずっと観ていくと、妙に嫌な役が多いことに気づきます。で、どういう風に嫌なのかというと、エラソーで傲慢で意地が悪いのです。 

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『実録阿部定』

1975年 日本 監督:田中登 脚本:いどあきお 出演:宮下順子、江角英明

 いちばん最初の記事の末尾に「『実録阿部定』については、また別の機会に。」と書いてからしばらく日が経ったので、そろそろこの映画に触れようと思います。
 さて、いろんな評論家やマニアの方たちが「名作」「傑作」と絶賛してらっしゃる作品ですし、何よりも私自身、田中登監督の『人妻集団暴行致死事件』で非常に心揺さぶられた経験があるので、期待して観たのですが‥‥どうもグッと来ませんでした。
 
 昭和11年、定は妻帯者である吉蔵と関係を持ち、旅館で愛欲の日々を過ごすうちに彼を殺害、その男根を切り取る。言うまでもなく、かの有名な阿部定事件の映画化です。
 そしてこの映画は定と吉蔵の世界を、対象に寄り添ってシリアスに描いています。2人が芸者の前で過剰にイチャイチャするシーンだけは、バカップル風でちょっとコミカルでしたが、他はおしなべて厳粛な感じ。
 私はこの描き方に違和感を持ちました。というのも、この題材の場合、対象を突き放して滑稽味すら漂わせながら描くのが相応しいのでは? と思うからです。

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『ラブ ゴーゴー』

1997年 台湾 監督・脚本:チェン・ユーシュン 出演:チェン・ジンシン、リャオ・ホェイチェン、タン・ナ、シー・イーナン

 ロマンポルノやアンソニー・ウォン主演作の話題でブログを始めましたが、今回はまったく違うタイプの作品について書きます。つまり、裸も暴力も出てこない映画。さわやかで可愛らしい雰囲気の映画。しかしその奥底にはどうしようもない苦さや切なさが流れている、と私は思っています。タイトルは『ラブ ゴーゴー』。原題は『愛情来了』。
 
 太った眼鏡男子でパン職人のアシェンは、初恋の人・リーホアに再会してドキドキ。かなり太めでファッションが奇抜なOLのリリーは、ひょんなことから見知らぬ男性と電話でお喋りする仲に。さらに気の弱いセールスマンのアソン、ミュージシャン志望のシュウなど、台北で暮らす若者たちにそれぞれの転機が訪れ‥‥。

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『真夏のおでん』 告知

 ブログ名が「映画記」となっているのに、早くも他ジャンルの記事を書いてしまいます。まあ正直に申しますと、私の長年の知人で役者をやっている人が今度舞台で久しぶりに主演するので、その舞台の宣伝をしようというわけです。分かりやすいですねー。
 そこでお願いなのですが、「映画は好きだけど演劇は興味ない」という方も、いちおう読んでみてください。映画がらみの話題に持っていきますから。

 劇団“おにぎりスキッパーズ2”の『真夏のおでん』が、今月27日から来月1日まで中野ザ・ポケットにて上演されます。詳しくは劇団の公式サイトhttp://www21.ocn.ne.jp/~onigiri2/index2.htmlをご覧ください。同サイトの公演案内によると、あらすじは「1983年東京。さえない酒屋のおっさんと四人姉妹の出会いが生んだ、誰も知らないコンビ二おでん誕生の物語」。
 作・演出の三島ゆたか氏は“おにぎり‥”の主宰者で、俳優としても活躍している多才な方です。映画出演も多く、例えば若手の吉田恵輔監督がゆうばり映画祭で賞を獲った『なま夏』では、ヒロインの女子高生に惚れる中年男という重要な役を演じています。
 
 主演の内藤トモヤさんは“サンハロンシアター”という劇団の俳優なのですが、“おにぎり‥”の舞台には以前から客演していて、今回はついに主役となりました。実は彼、塚本晋也氏率いる“海獣シアター”の初期メンバーでして、その昔、舞台版『電柱小僧の冒険』のタイトルロールを演じた人なのです。活動は舞台中心ですが映画・CM・ドラマにもちょこちょこ出演しており、最近では前述の吉田監督の『机のなかみ』でヒロインの父親を演じていました。そう、あの、高校生の娘と一緒にお風呂に入っていた丸顔のお父さんです。
 (ちなみに吉田監督はもともと塚本監督の映画の照明技師であり、お2人は弟子と師匠のような間柄なのですが、師匠がお弟子さんに旧知の俳優を紹介した‥というわけではないそうです。たまたま吉田監督が“おにぎり‥”の舞台で内藤さんを見て『机のなかみ』にキャスティングし、あとから内藤さんと塚本監督の仲を知ってビックリ! だったとか。)
  
 そういうわけで、演劇好きの方はもちろん、映画『机のなかみ』のお父さんをナマでじっくり見てみたい~という方も、是非この公演に足をお運びくださいませ。

『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウィルス』

1996年 香港 監督:ハーマン・ヤウ 脚本:チョウ・ティン 出演:アンソニー・ウォン

 先日の記事に登場したシネマヴェーラ渋谷。その公式サイトhttp://www.cinemavera.com/に、『館主のひとりごと』というエッセイが連載されています。これをずっと読んでいると、館主さんが実はアンソニー・ウォン特集をやりたがってらっしゃる‥ということが分かります。
 その特集がもし実現するのであれば、ぜひ上映していただきたいのが、『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウィルス』。かなり前にビデオで観て、「今度はスクリーンで観てみたいナ」と思った作品です。とにかくエロ・グロ・バカと三拍子そろった、ある意味ゴージャスな映画。
 
 アンソニー扮する男が殺人ウィルスに感染するのですが、なんか知らんけど免疫があるとかで、弱るどころか異様にパワーアップして暴虐の限りを尽くし、ウィルスを撒き散らして香港の街をパニックに陥れます。
 単なる思いつきだけで作ったようなストーリーですが、ためらわずに徹底して突き進んでいくので、妙に爽快。中盤ではアフリカが舞台になっていて、無駄にスケールがデカいところも魅力です。
 
 いちおう実在のエボラウィルスが題材になっていますが、医学的リアリティなど(たぶん)ハナから放棄している映画なので、架空のウィルスだと思って観た方がいいです。ちなみにクシャミや息で感染する場面では、たまらなくチープな特殊効果が使われていて、呆れます。面白いけど。
 
 さて肝心のアンソニー。普通の俳優がこういう役をやると(あんまり、やる人はいないですが)頑張って狂気やヘンさを出している感じがするものですけど、彼の場合、頑張らずにボワッと役になりきっているように見えます。終盤で、「イ~~~ボラ! イ~~~ボラ!(エボラ、エボラ)」と不気味に叫びまくる姿も、ぜんぜん無理していない感じです。
 中・英ハーフの濃い顔立ちと長身を、「カッコいい」ではなく「怖い」の方面に活用しているアンソニー。その判断力と演技力に敬服です。『インファナル・アフェア』などでは一転してシリアスかつ繊細な演技を披露しており、まったく彼の演技の幅は広すぎることこの上なし、です。
 
 ‥‥などとアンソニーマニアみたいなことを書いてしまいましたが、実は私、あの『八仙飯店之人肉饅頭』を観ていません。まだまだ修行が足りないのです。シネマヴェーラの館主さん、特集実現、よろしくお願いいたします。

『わたしのSEX白書 絶頂度』

1976年 日本 監督:曽根中生 脚本:白鳥あかね 出演:三井マリア、益富信孝、村国守平、芹明香

 これが初めての記事なので、自己紹介代わりに、私の年齢・性別などがほんのりと分かるような文章を書いておきます。
 
 先週、シネマヴェーラ渋谷にロマンポルノを観に行きました。『わたしのSEX白書 絶頂度』と『実録阿部定』の2本立て。『わたしのSEX白書‥』は、大病院の採血係として働くあけみが、ヤクザ風の男の紹介で娼婦のアルバイトを始め‥‥というストーリー。
 
 ヤクザ風の男はヤサグレた女性のヒモなのですが、彼女の部屋には何故か、白いドレス(ウェディングドレス?)を着たフランス人形が飾ってあります。いかにもヤクザな感じのヒモがいて、常に倦怠感を漂わせている女の部屋に、フランス人形。しかも白ドレス。彼女自身が買ってきたものなのか、ヒモが戯れにプレゼントしたものなのか‥‥。
 
 当時をご存じない若い方のために解説しますと、この映画が製作された1976年頃、たしかにフランス人形が流行っていたのですが、それらは大抵の場合、小学生くらいの女の子が居る家庭に飾られていたのです(私自身、当時小学生でしたが、殺風景な我が家にも黄色いドレスのフランス人形があり、家の中で妙に浮いていたのを憶えています)。
 そんなわけで、「ヒモつき女の部屋にある白ドレスのフランス人形」は、いろいろと想像を掻き立てるアイテムなのです。
 
 「想像を掻き立てる」という表現でお分かりの通り、この映画の中でフランス人形は、少し画面に映るだけです。それにまつわるエピソード等は出てきません。ちょっと叙情的だけど、感傷的ではない。映画自体もそんな印象です。ヒロイン・あけみの二重生活も、どこか乾いた感じで描写されています。曽根中生監督の持ち味なのでしょうか。例えば彼は『天使のはらわた 赤い教室』において、原作・脚本の石井隆氏の独特なセンチメンタリズムを、少し突き放して映像化していたような気がします。
 
 『実録阿部定』については、また別の機会に。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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