『ションベン・ライダー』

1983年 日本 監督:相米慎二 脚本:西岡琢也、チエコ・シュレイダー 出演:河合美智子、永瀬正敏、坂上忍、藤竜也、伊武雅刀、桑名将大、木之元亮

 シネマヴェーラの特集「子供たちの時間」にて。若い頃に観て以来、久しぶりの再見。相米慎二監督が、大ヒット作『セーラー服と機関銃』の次に撮った作品です。
 
 ストーリーは、「夏休みに仲良し中学生3人組が、ヤクザの抗争に巻き込まれた同級生を助けようと奮闘する」というもの。「ティーンエイジャーとヤクザ」という組み合わせは、『セーラー服‥』と同じですね。また、主演女優がラストで流れる主題歌を歌っている点も、その作詞・作曲が来生えつこ・たかお姉弟である点も、これまた『セーラー服‥』と同じ。
 つまり映画会社としては、「10代の子たちが劇場に詰めかけて大ヒット!」という結果を期待して、この企画を進めたのでしょう。で、どうだったかというと、残念ながら全くそうはならなかったわけです(まあ正直言って、私の目から見ても、この作品は一般ウケする映画ではないと思います)。
 
 要するにこの2本、企画の面でいろいろ共通項がありながら、作品としてはかなり違うものになっているのです。昔観た時は、その違いの原因がよく分からなかったのですが、今回はハッキリ分かりました。

 『ションベン・ライダー』は『セーラー服‥』に比べて、大人側の描写が重いのです。「中学生たちの夏休みの冒険旅行」という枠組みがあるにもかかわらず、大人たちの悲哀が過剰なほどに強調されている。
 シャブ中の中堅ヤクザ、彼と裏で繋がっている警官、2人組の下っ端ヤクザ。彼らは最初、自分がなかなかの切れ者で組織からも必要とされていると思っているのですが、しだいに自分が何者でもなく見放された存在であることを知り、挫折感や絶望感を抱きます。そしてこの感情を、藤竜也・伊武雅刀・桑名将大&木之元亮が的確に演じていて、特に藤さんと伊武さんの演技が素晴らしく、その名演をカメラが長回しでじっくり捉えていて‥‥。
 
 それはそれで本当に見応えがあるのですが、しかし、この映画の枠組みはあくまでも「中学生たちの夏休みの冒険旅行」なのです。その証拠に、「とっても○○なキ・ブ・ン!」というような、当時の若者言葉(?)を駆使した字幕が頻繁に出てきたり、少年少女たちが歌う楽しげな挿入歌が劇中で流れたりします。渋い大人たちの悲哀と、異様にポップな字幕や歌。このミスマッチ具合は、まさに「水と油」。
 もちろん、「大人たちの挫折や絶望を目の当たりにすることによって、子供たちが色々な感情を抱く」というのもこの映画の大きな要素だし、それがクライマックスでの、子供たちが『ふられてBANZAI』を歌い踊るシーンに結実するわけですが、やはりそれでも全体としてのバランスは悪いと思います。
 
 それに比べると『セーラー服‥』では、大人たちの悲哀はやや控えめに描写されているし、ヒロインは高校生なのでわりと大人に近いし、『ションベン・ライダー』での字幕や挿入歌のような露骨にポップな要素も無いので、大人側とヒロイン側の描写のバランスが取れています。うまく調和していると言ってもいいでしょう。

 そんなわけでこの『ションベン・ライダー』、もう少し大人側の描写を抑えて、同時にもう少し子供側のポップな要素を抑えれば、両方がうまく調和し融合するのではないかと。ただ、そうすると、この作品特有の何とも言いがたい奇妙な魅力が半減して、「普通の映画」に近づいてしまうのかもしれませんね。この映画は一部の評論家やマニアの方々の間で非常に評価が高く、今回の特集上映のチラシでも「傑作」として紹介されているのですが、それは普通でないからこその評価なのでしょうし。
  
 ちなみに、ここで私の個人的な評価を述べておくと、私自身はこの映画を「魅力的で面白い作品」だと思うものの、「傑作」だとは思いません。理由は、先に述べた通り「バランスが悪い」からです(私はそういうことも映画にとって大切だと思っているので)。総じて相米監督の映画には、「それぞれのシーンはとても魅力的なのに、全体的な構成や流れがやや崩れている」という傾向があるような気がします。
 実は私、学生時代に相米監督について文章を書いたのがきっかけで、その後たまにご本人とお話ししたりしていたのですが、あるとき私が『お引越し』について「構成が良くないのでは‥‥」というようなことを正直に申し上げると、監督は「オマエに言われなくても分かってるヨ」と仰っていました。ニヤニヤ笑いながら。それにしても、監督が亡くなってからもう6年も経つんですね。

 最後に、この映画について監督から直接お聞きした話の中で、印象に残っていることを1つ書いておきます。河合美智子について。
 当時『セーラー服‥』の監督の次回作ということで、主演女優を決めるオーディションに大勢の少女たちが集まったそうなのですが、その大勢の中から彼女を選んだ決め手は何だったのか、ということ。監督曰く、「自意識の隠し方が良かった」。
 
 つまり、他の少女たちは自意識が強くてしかもそれを露骨に漂わせていたけれど、彼女にはそういう雰囲気が無かったらしいのです。「オーディションに来るくらいだから多少の自意識はあったんだろうけど、あの子の立ってる姿とかにはそれが一切感じられなくて良かった。」と、監督は仰っておりました。そういえば、彼女はその後ずっと女優や歌手などを続けていますが、未だに芸能人っぽさが希薄というか、自分を実際以上に良く見せようというような無駄な気負いが感じられず、独特な魅力があります。

『ヴァージン・スーサイズ』

1999年 アメリカ 監督・脚本:ソフィア・コッポラ 出演:キルスティン・ダンスト、ハンナ・ホール、ジェームズ・ウッズ、キャスリーン・ターナー、ジョシュ・ハートネット

 シネマヴェーラ渋谷の特集上映「子供たちの時間」にて鑑賞。ソフィア・コッポラの監督デビュー作。一般的にかなり有名な映画だし、すでにタイトルからしてネタばれ気味なので、今回はストーリーの結末まで書きます。
 
 70年代、アメリカ郊外。リズボン家の5人姉妹は、真面目な数学教師の父とやや過保護な母のもと、平穏な生活を送っていました。近隣の少年たちは、長い金髪をなびかせる10代半ばの彼女たちに夢中です。
 しかしある日、末娘のセシリアが自殺。そして悲しみに沈む一家が少しずつ明るさを取り戻した頃、四女のラックスがボーイフレンドのトリップと外泊するという「事件」が起こります。激怒した母親は、姉妹全員を自宅に監禁。学校にさえ行かせてもらえない彼女たちは、電話などを使って密かに少年たちと交流を深めますが、やがて姉妹全員が自ら死を選びます。

 全体的にサラッとした淡い感じの映画。自殺や遺体の描写にも、あまり悲惨さはありません。終盤で父親が、母親による娘の監禁を批判することもできず、かといって娘たちと話し合うこともできず、苦悩のためか精神に異常をきたしていくのですが、このあたりの描写にも激しさはなく、非常に淡々と描かれています。
 また時折、現在の(歳をとった)トリップがラックスとの思い出を語るシーンが挿入されていて、途中まで彼がどういう状況で語っているのか全く分からないのですが、最後の方で簡潔にそれが示され、同時に、現在の彼があまり幸福ではないことが、うっすらと観客に伝わってくる仕掛けになっています。これらのさりげない描写、どれも巧いです。 
 
 さらに全編を通じて、音楽(特に昔のポップス)の使い方も巧いし、美術も凝っているし、いろんな意味で監督のセンスの良さを感じます。しかし。これは好みの問題もあるのでしょうが、自殺という重い題材を扱った作品として、この映画は洗練されすぎていると思います。淀みがなさすぎるというか。
 別の観点から言うと、こういう資質の監督は、楽しい題材の方が合っているのではないでしょうか。ソフィア・コッポラはその後『ロスト・イン・トランスレーション』と『マリー・アントワネット』を撮りましたが、いつか最高にハッピーなラブ・コメディなどにも挑戦してほしいです。

 ところでこの映画では、自殺の動機はハッキリとは描かれません。ただ、「少女たちに世界の広さや多様さを教えてくれる大人が1人も居なかった」という点が、カギになっているような気がします。もともと姉妹には、両親以外に親しくしている大人は全く居ないようだったし、肝心の両親は、神経質だったり過保護だったり。
 
 興味深いのは、この点が監督の育った環境とは逆だということ。周知の事実ですが改めて書くと、ソフィア・コッポラは、『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』で有名なフランシス・F・コッポラ監督の娘(しかも幼い頃から、父親の映画の海外ロケなどに同行していたとか)。
 つまり彼女は、極端に個性的でクリエイティブな大人たちに囲まれ、広い世界を見ながら育ったわけです。そんな彼女が、「子供の視野を広げられない大人」と「そんな大人に囲まれて自殺に向かう子供」を描いたのは、自分の育った環境を肯定的に捉えているからなのでしょう。

『ローグ アサシン』

2007年 アメリカ 監督:フィリップ・G・アトウェル 脚本:リー・アンソニー・スミス、グレゴリー・J・ブラッドリー 出演:ジェット・リー、ジェイスン・ステイサム、ジョン・ローン、石橋凌、ルイス・ガスマン、デヴォン青木、ケイン・コスギ  
全国各地で上映中 詳しくは→http://www.rogue-assassin.com/
 
 ジェット・リーが「リー・リンチェイ」だった頃の映画を楽しんでいた者として、「もう武術は封印する」みたいな発言をした彼の動向が気になっていました。また、その昔『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』でジョン・ローンに魅了された者として、彼の現在の姿にも興味がありました。この2人だけでなく、全体的に出演者の顔触れが面白いという点に惹かれて鑑賞(ちなみにジェット・リーがローグ役、ジェイスン・ステイサムが捜査官役、ジョン・ローンがマフィアのボス役)。
 しかし実際に観てみて色んな意味で印象に残ったのは、終盤のストーリー展開です。

 基本的には「相棒を殺されたFBI捜査官が、その犯行の容疑者である殺し屋ローグを執念深く追い続ける」というストーリーで、そこにジャパニーズ・ヤクザとチャイニーズ・マフィアの抗争が絡んできます。で、ラスト近くになって、いわゆる「意外な真相」がいくつか明かされるのですが、これらがどうにも取って付けたような感じなのです。
 まあ真相の内容自体は、ちょっと強引というか無理があるにしても、極端に突飛なものではないです。「実は宇宙人の陰謀だった」とか、そういうのではないですから。
 
 問題は、見せ方(語り方)。この手の真相というのは、序盤から綿密に伏線を張ったうえで終盤にジャジャン! と明かすべきで、そうすれば、観客は驚きとともに「なるほど!」と納得・感心できるのですが、この映画の場合、イキナリなんですよ。伏線らしきものは少しあったかなーという程度で、ラストちかくになって突然、いろいろ出てくるんです。だから観ている側としては、「急にそんなこと言われてもなあ‥‥」という気持ちになってしまうのです。 

 もちろん人によって受け取り方はさまざまですから、この「突然明かされ方式」はとにかくビックリできて刺激的だ、という方もいるでしょう。あるいは、「え? けっこう伏線、張ってあったよ」という方もいるかもしれません。
 これは言い訳なんですけど、実は私、この映画のトンデモ日本描写にかなり目を奪われていたので、そのせいで伏線を見落とした可能性もあります(もしそうだったらスミマセン)。
 例えば日本料理店やヤクザ組織の事務所で、なぜか壁に掛け軸みたいなのが大量に飾ってあって、まあそのこと自体すでに変なんですけど、そこに書かれている日本語が、さらに変。なんというか、場の雰囲気にまったく合わない言葉が書いてあるんです。「下手の横好き」とか。おかげでヤクザ対マフィアの抗争シーンでも、壁の方が気になってしまい、困ったり笑ったりしながら観ていました。

 さてジェット・リーは、ある程度のアクションは見せてくれますが、たしかにもう武術は披露していないです。本人の意向らしいので仕方ないとしても、やっぱり物足りないというか、もったいないというか。ただケイン・コスギとのバトルなど、「オッ!」と思うようなアクション・シーンが少しはあったし、彼の持つ冷徹な雰囲気は役に合っていたと思います。
 
 ジョン・ローンは、顔も体型も昔とそれほど変わっていません。でも何だか必要以上に、自分の若い頃の容姿に執着しているようにも見えます。今年で55歳という年齢のわりに髪の毛が妙に黒々としているし、ヘアスタイルも昔と同じだし、それに顔のシワが少なすぎるような気も‥‥。
 あまり若づくりせず、歳相応の渋みや「ほどよく枯れた感じ」を出した方が、俳優として長く活躍できるのではないでしょうか。いずれにせよ、若い頃に美形として脚光を浴びた人は、歳の取り方が難しいようです。
 
 リーとダブル主演のジェイスン・ステイサムは、イギリス映画界出身。総じてヨーロッパからハリウッドに来た俳優さんは、アカデミー賞を獲るような「演技派スター」を目指す傾向が強いのですが、彼の場合は好んでアクション映画への出演を続けている模様。まだ30代でスタイルもいいのに首から上がすごくオッサンぽいという点でも、面白い人だと思います。

展覧会で、昔のPR映画を鑑賞。

『スクリーンのなかの銀座 伝説の並木座が映す。ギンザを遊ぶ。』
「ハウス オブ シセイドウ」(資生堂本社ビル1階・2階)にて11月25日まで開催中 入館無料
公式サイト→http://www.shiseido.co.jp/house-of-shiseido/

 先日、用事で銀座に行った際、上記の展覧会を観てきました。ちなみにこの会場、資生堂が運営している美術館&図書館のようなスペースですが、同じく銀座にある「資生堂ギャラリー」とは別の施設です。場所も少し離れているので、ご注意を(私は最初間違えてギャラリーの方へ行ってしまいました)。
 肝心の展示内容はというと、なかなか面白かったです。正直言って、「ついでにちょっと覗いてみよう」くらいの気持ちで入ったのですが、結果的には2時間ちかくも会場内に居ました。

 まず1階では、銀座を舞台にした映画のスチール写真が展示されていました。また、(私は今回観なかったのですが)それらの映画や現在の銀座を描いたショート・フィルムが奥のミニシアターで上映されていたようです。
 
 2階に上がって、まず目に入ってきたのは、伝説の名画座「並木座」で使用されていた重厚な映写機。さらに同劇場の広報誌に寄せられた著名人の生原稿、女優であり監督でもあった田中絹代さん愛用の品々など、さまざまな貴重品が並んでいました。
 しかし個人的に最も興味深かったのは、会場の隅の方でエンドレス上映されていた、資生堂の企業紹介映画たち。どれも40年ほど前に作られた、いわゆるPR映画なので、今では滅多に観られないものばかり。思わず私はそのうちの2本を鑑賞、気がついたら予想外に長居をしていた‥‥というわけです。ちなみに両方とも上映時間は約30分。何気なく観たうえに資料がほとんど無いので具体的なことは書けませんが、憶えている範囲内で簡単に記録しておきます。

 最初に観たのは、資生堂の商品の製造・流通過程を紹介した作品(タイトル失念)。工場の内部の様子もかなり映っています。ただ、具体的な製造工程については省略されている部分もあります。たぶん企業秘密だったのでしょう。

 次に観たのは、資生堂の社史と銀座の歴史を織り交ぜて紹介した『銀座100年』。1872年(明治5年)の創業からちょうど100年経った頃なので、それを記念して制作されたようです。監修は市川崑。小さな薬局が大企業に成長していく過程と共に、銀座という街の波乱に富んだ歴史が映像で語られています。
 
 銀座はその100年の間に、大火事と震災と戦争によって、3度も「壊滅→復興」を繰り返しました。漠然と知ってはいたのですが、今回の映画を観て、改めてそのことをしみじみと実感。現在、有名ブランドの豪華な店舗が建ち並ぶこの街が、そう遠くない過去に、何度も焼け野原になっていたのです。
 ふと、以前このブログで紹介した瀬々監督の浅草の映画を連想しました。長い歴史を持つ都内東部の繁華街として、また戦争や震災などで何度も壊滅した街として、銀座と浅草にはけっこう共通点が多いですよね。
 
 他に印象的だったのは、都電に関する部分。銀座の都電が廃止された日の記録映像が挿入されていたのですが、そこには、廃止を惜しむ人々が押し寄せて大騒動になっている様子が映っていました。その熱狂ぶりに、ちょっとビックリ。当時これだけ大勢の人が集まったということは、鉄道マニアだけでなく一般の乗客の中にも、銀座の都電に強い愛着を持っている人が多かったということなのでしょうか。

『にっぽん’69 セックス猟奇地帯』

1969年 日本 監督・構成:中島貞夫 構成:竹中労 ナレーション:西村晃
 
 数年前に池袋の新文芸坐でリバイバルされた際に見逃してしまい、先日シネマヴェーラにて鑑賞。ちなみにこの映画、エログロ風のタイトルが付いていますが、そっち方面だけでなく、当時のさまざまな社会現象に取材したドキュメンタリーです。
 登場するのは、新宿フーテン族、学生運動、花園神社での「状況劇場」赤テント公演、美容整形の手術現場、乱交パーティー、前衛ハプニング集団「ゼロ次元」のパフォーマンス、ブルーフィルムの撮影隊、マゾヒスト、旧赤線地帯・飛田の街並み、トルコ風呂、ヌード・スタジオ、ストリップ、沖縄の米軍基地と歓楽街などなど。

 とにかく当時の文化・風俗・流行を無造作に詰め込んだような作品です。途中まで取材する側の人間は画面に一切登場しないのに、最後の沖縄編だけ、唐十郎氏がリポーター(旅人?)として登場。何だかこの部分だけ「唐十郎・心の旅」みたいになっていて、映画の構成としてはちょっと変なのですが、この変さや「なんでもアリ」な感覚も、当時の世相の反映なのかもしれません。

 ところで私はこの映画を観たとき、「完全なドキュメンタリーではなく、部分的には俳優さんを使って仕込み撮影したのでは?」と思いました。
 例えばブルーフィルムの撮影隊の様子を撮ったというシーンで、フィルムに出演する女性の、いかにも訳あり風で哀しげな姿(お酒をガブ飲みしてから撮影に臨み、終了後フラフラな足取りで去って行く)が映っていて、これなどはあまりにも劇的というか、当時のある種の女性(事情があって仕方なくアングラな裸仕事をしている)を象徴しすぎているような気がして、かなり疑ってしまったのです。
 
 しかし中島貞夫監督のインタビュー本『遊撃の美学』によると、この映画は「ただ事実だけを追う」というコンセプトで撮影に1年も費やしたそうで、仕込みなどは無かった模様。先述の女性に関しても、撮っていたらたまたまそういう姿に遭遇して色んなことを感じた‥‥という旨の発言がありました。
 つまり、ブルーフィルムなどの出演者には「泥酔でもしないと、こんなこと出来ない」という女性が多かったのでしょうか。それとも中島監督には、劇的な瞬間をつかまえる特殊な力があるのでしょうか。おそらくその両方が結びついて生まれた場面なのでしょう。

 それにしても私、この文章で「当時」「当時」と書きまくっていますが、「じゃあ当時を知っているのか?」と問われると‥‥「“知っている”とまでは言えないが、一応その頃の空気は吸っている」という曖昧な答えになります。
 ついでに場所的な話をすると、私は(飛田ではないけれど)旧赤線地帯の近くで生まれ育ちました。だから、この映画に出てくる「遊郭街の面影を残す町並み」や「売春防止法以降に増殖した色々な性産業」には、ある意味とても馴染みがあります。
 子供の頃、トルコ風呂やら何やら近所にたくさんあったので、学校や友達の家への行き帰り、エロいことが書いてある看板やポスターを眺めながら歩いたものです。私が今こうして平気でエログロなタイトルの映画を観に行けるのも、当時の積み重ね(?)があるからかも知れません。

 最後に、ちょっと気になったことを。ヌード・スタジオのシーンで、裸の女性が客の男性に向かって「ここが芝公園、ここが東京ガス」などと自分の局部のあたりを地図に見立てて指さしている様子が映っていますけど、こういうのって、つげ義春のマンガ『やなぎ屋主人』にも出てきますよね。
 映画の封切が1969年(撮影は68年)、『やなぎ屋主人』が発表されたのは1970年。この頃のヌード・スタジオでは、地図に見立てるのが一種の決まり文句みたいになっていたのでしょうか? ご存知の方は教えてください。

『異常性愛記録 ハレンチ』

1969年 日本 監督・脚本:石井輝男 出演:若杉英二、橘ますみ、吉田輝雄

 昨年テアトル新宿でリバイバル上映された際に見逃してしまい、先日ついに渋谷のシネマヴェーラで鑑賞。カルトな珍品だという噂を聞いていて、そのつもりで観たら、意外と普通の娯楽映画的な要素も入っている作品でした。どういうことかというと、ストーリーの骨格がとてもオーソドックスなのです。
 
 ヒロインは、バーのママ・典子。彼女は身勝手な深畑と別れて新しい男・吉岡と一緒になりたいのですが、深畑は決してそれを許さず、異様な執念で典子にまとわりつきます。やがて深畑と吉岡が対決する事態になり‥‥。
 
 つまり最も単純な表現をすると、三角関係の物語なわけです。そしてヒロインを取り合う2人の男も、ひとりは気色悪い男、もうひとりは紳士的な二枚目と、非常に対照的で分かりやすいです。結末も(ここには書きませんが)あらすじとしては、いかにもかつての娯楽映画にありがちなもの。
 しかし作品自体は、「複雑怪奇」と呼ぶに相応しい仕上がりです。
 
 まず「複雑」なのはストーリーの見せ方。時系列に沿った展開ではなく、現在進行形の部分と少し過去の部分とかなり過去の部分が、小刻みにいろんな順序で提示されます。だから観ていて、やや混乱します。
 
 そして「怪奇」な要素は、いろいろあります。メインはやはり、深畑のキャラクターでしょう。彼は典子の前に現れると、決まって気持ち悪い笑顔で「しあわせ?」と問いかけます。会話の際には、やたらと語尾に「だよ~ん」「だも~ん」と付けます。過剰な性欲の持ち主で、毎日典子の体を求めるだけでなく、金髪女性やゲイ・ボーイとも遊んでいます。ちなみに妻子持ちで、いちおう染物会社の社長。異様な面を持っていながら社会にちゃっかり適応しているというのが、よけいに怖いですよね。
 この不気味な人物像を、若杉英二が絶妙に怪演。顔が常にテカっていて、ヌラヌラしているのも素晴らしいです。また石井監督の演出も、若杉氏の姿に獣の雄叫びをかぶせたり、彼の鼻の穴をアップで映すなど、なかなか冴えています(最初黒い大きなものが映っていて「何だろう?」と思っていたら、徐々にカメラが引いていって、鼻の穴だと分かった次第)。

 もうひとつ「怪奇」なのは、作品全体のバランスを崩すほど長く挿入された、深畑の夜遊びシーン。まず、ディスコみたいなところで深畑とゲイ・ボーイズが踊っているとき、大勢いるボーイズたち全員が、順番にああだこうだと自己PRを展開。長い。これだけでも長いのに、さらに覗き部屋みたいなのが出てきたり、なんだかゴチャゴチャと店内の描写が続きます。実はこのあたり、ずーっと照明がチカチカ点滅していて、よく見えませんでした。あと、深畑とゲイの女王様がSMプレイに興じるシーンもかなり長かったような。
 
 ちなみに、ゲイ・ボーイズがらみの描写がなぜ異常に長くて派手なのか、私なりに考えてみました。まずひとつは、深畑のキャラクター(貪欲なまでに享楽的)を強調するため。もうひとつは、「観客の皆さんにゲイ文化や風俗をたっぷりお見せしよう」という作り手側のサービス精神。当時は今ほどその種のものが普及・浸透しておらず、多くの観客にとっては「未知の世界」だったので。そしてもうひとつは‥‥監督の趣味。これはまあ、何となく。

 とにかくこの映画を観て、「単純かつオーソドックスなプロット(あらすじ)からでも、細部の凝りようによっては複雑怪奇な映画が出来上がる」ということを、改めて感じました。

※ 以下は、結末に関する小ネタというか、余談です。ネタばれOKな方は、どうぞ。

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『そんな無茶な!』

2007年 日本 プロデュース:佐藤佐吉 公式サイト→http://www.sonnamuchana.com/

 脚本家・俳優・監督として多彩に活動する佐藤佐吉氏がプロデュースしたオムニバス映画。昨今流行の「泣ける映画」に対抗した「無茶な映画」というコンセプトのもと、4人の監督が自ら発想した企画に挑んでいます。


『彼女が歌う理由』 構成・編集・監督:本田隆一
 
 「新宿ゴールデン街に現れるという“女性全裸歌手”の姿をカメラに収めようと奔走するドキュメンタリー」ということになっていますが、観た感じではフェイク・ドキュっぽいです。もちろん、フェイクだろうと何だろうと面白ければいいんです。で、どうだったかというと、面白い要素とそうでない要素が混在していたような。
 全裸歌手の不可解なキャラは面白かったです。不可解といってもいわゆる「不思議ちゃん」ではなく、かなり無愛想というのも新鮮でした。ただ、彼女と他者との噛み合わない会話を延々と撮ったシーンが幾つもあって、ちょっとクドい感じがしました。会話のシーンはもう少し短くして、そのぶん動きのあるシーンを増やした方がいいと思います。
                                

『おばあちゃんキス』 監督・脚本:井口昇 出演:戸山貞子、山本緑、田嶋和江、岸健太郎、デモ田中
 
 おばあちゃん同士の恋をファンタジックかつエロティックに描いた恋愛映画。ご高齢の女優さんたちがキスシーンを演じるというのは観る前から知っていましたが、キスの回数があまりにも多いのでビックリしました。たぶん合計100回くらい、ブチュブチュ~。こんな映画、世界じゅう探しても他に無いと思います。おばあちゃんたちが筋肉ムキムキになって格闘技をしたり、真っ赤な衣装で踊ったりするシーンでは、心地よい眩暈が‥‥。
 ちなみにこの映画には、「おじいちゃん」は登場しません。凡人(私)の発想だと、1人くらいちょっとした色男が出てきて、おばあちゃん同士の関係に割り込んで‥‥となるのですが、まったくそういう展開にはなりません。もう完全に乙女だけの世界。井口監督の理想郷なのでしょうか。


『東京ゾンビ外伝』 監督・脚本・出演:花くま ゆうさく 出演:村田卓実、志賀廣太郎、中村靖日
 
 かつて佐藤佐吉氏が監督した映画『東京ゾンビ』を、原作者の監督・主演でリメイク。ちなみに私、佐藤監督の方は未見です。さてこの『外伝』、作品そのものとは別の面で興味をかき立てられたことがあるので、それについて書かせていただきます。
 今回の映画で私は、花くま ゆうさく氏のお顔を初めて見ました。何というか、イメージしていたのと全然違いました。彼の描くマンガやイラストから、一風変わった容貌の男性を想像していたのですが、完全にハズレ。なかなかの二枚目なのです。ちょっとビックリ。こういう顔で生きてきた人が、何故ああいう変な容貌のダメ人間ばかり描くようになったのでしょうか。
 例えば杉作J太郎氏なら、ご本人の姿をパッと見ただけで、何故ああいうボッテリしたダメ人間ばかり描くようになったのか、なんとなく分かります(失礼!)。でも花くま氏は‥‥謎です。花くまさん、ぜひ今度は自伝映画を作って、そのあたりの経緯を詳しく教えてください。もちろん、また監督&主演で。


『アブコヤワ』 構成・演出・編集:真利子哲也 編集:松江哲明 
 
 『そんな無茶な!』の製作費は、監督1人につき100万円。それを全額宝くじ購入にあてたことから巻き起こる家族と監督本人の葛藤・苦悩を描いたセルフドキュメンタリーです。この「葛藤・苦悩」という言葉はチラシにも書かれているし、実際そういう内容なのですが、まず私はこのことに違和感を覚えました。
 ご家族が葛藤し苦悩されるのは分かります。でも監督本人は、この企画を自分で考えて「やりたい」と申し出たわけですよね。そうである以上、自分の葛藤や苦悩については、もう少し批評的に(ツッコミを入れるとかしながら)表現してほしいです。この監督、妙に堂々と苦悩しまくっているので、観ていて「なんだかなあ」と思いました。それとも、ワザとそういう風にしてるんですか? 
 そして問題のラスト・シークエンス。これに関しては、スタッフの方々がブログに「驚愕」「衝撃」と書いていて、それを読んでいたせいかもしれませんが、私はあまりビックリしませんでした。

※ ここより先は結末にかなり触れています。ネタばれOKな方だけお読みください。

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プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。

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