『エグザイル/絆』

2006年 香港・中国 監督:ジョニー・トー 脚本:セット・カムウェン、イップ・ティンシン、銀河創作組 出演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ロイ・チョン、ラム・シュ、ニック・チョン、サイモン・ヤム、ジョシー・ホー、リッチー・レン 
公式サイト→http://www.exile-kizuna.com/

 ジョニー・トーは娯楽映画の職人監督として出発し、ある程度キャリアを積んでからは、ノワール・アクション路線とコメディや恋愛モノの路線という、対照的な2つの流れを軸に活躍している監督。私は彼のノワール・アクション路線の作品が好きで、いろいろ観ています。
 ところでトー監督のノワール・アクション路線の日本における公開状況は、ちょっと妙なことになっています。例えば『エレクション』2部作のうち、パート1は日本で公開されたもののパート2は未公開、それなのに次の作品であるこの『エグザイル/絆』は現在公開中。
 
 なぜこういうことになったのかというと、やはり『エレクション』パート1が興行的にコケたから、なのでしょう。コケた理由も、何となく分かります。個人的には好きな作品なのですが、どうにも一般ウケしなさそうというか、人によって好き嫌いがハッキリ分かれそうというか。特に終盤の展開が(おそらく)意図的にハズして作ってあるので、観終わって「‥‥何じゃこれ」と思った人が多いのではないかと。
 それに比べてこの『エグザイル/絆』は、ラストがかなりオーソドックスかつ綺麗にまとまっているので、「何じゃこれ」感は皆無。つまり観た後にモヤモヤしない。また、トー監督のノワール・アクション路線の作品はどちらかというとクールな雰囲気のものが多いのですが、この映画はほどよく情緒的・感傷的なので、広い層に受け入れられやすいと思います。たぶん配給側もそのあたりに着目したのでしょう。

 「ほどよく情緒的・感傷的」と書きましたが、部分的には情緒過多だと感じた要素もあります。例えば、集合写真の使い方。
 この映画は黒社会に生きる幼なじみの5人の男たちが主人公で、そのうちの1人・ウーがボスの命を狙うものの失敗して逃亡、あとの4人は、ボスの命令でウーを殺そうとする者と逆にウーを守ろうとする者とに分かれるが‥‥というストーリー。映画には彼らの少年時代の写真と、中年になって複雑な状況で再会した時の写真、そして(詳述は避けますが)終盤で撮影される重要な写真と、合計3枚の集合写真が登場します。これらの見せ方・使い方が、ややベタで泣かせに走っているんですよ。
 
 しかし。映画全体としては、「泣かせに走っている」という印象はありません。これはやはり、語り口の淡さが功を奏しているのでしょう。というのも、この映画は全体的にセリフが少なく、特に説明ゼリフが非常に少ないのです。
 主人公たちの背景や少年時代の思い出なども殆ど説明されないし、ウーがボスの命を狙うに至った事情も一切説明されません。説明は無くとも、彼らの現在の姿やボスの行動などから、観客が背景や事情を何となく感じ取れるようになっているのです。このあたりの抑制が利いているので、ベタベタのいわゆる「泣ける映画」とは感触が違います。

 最後にミーハー的なことを書いておくと。ジョニー・トーがノワール・アクション路線でよく起用するキャストには私の好きな俳優さんが多く、実はそれもあってトー監督のこの路線に注目しているわけですが、今回も期待どおりイイ役者さんが勢ぞろいしていて、特にボスを演じたサイモン・ヤムが光っていました。
 つくづく思うのですが、この人、演技力の鍛錬だけでなく体づくりにも励んでいるんでしょうねえ。50を過ぎてこれほどガッチリした逞しい体を維持しているというのは、相当の努力があってのことでしょう。まあ、かつてセルフヌード写真集を喜々として出版した人なので、基本的に「俺、自分の体が大好き♥」ってことなんでしょうけど。いずれにせよ、今回のような粗暴で残忍でなかなか死なないキャラクターをみごとに具現化できるんだから、大したもんです。
 
 ちなみにアンソニー・ウォンとニック・チョンについては、過去にそれぞれ記事を書いていますので、興味のある方はこちらこちらをどうぞ。そうそう、アンソニーの記事に希望として書いた「シネマヴェーラでのアンソニー特集」は最近実現されたのですが、残念ながらエボラや人肉饅頭など猟奇・変態作品が入っていませんでした。権利問題など色々難しいとは思いますが、今度はぜひ「変態アンソニー特集」をお願いします。

やはり邦画の情報も。

 夏に東京で上映された『四畳半革命 白夜に死す』が現在、大阪で上映されているようです。大阪市北区のPLANET+1(プラネットプラスワン)にて今月の26日まで。詳しくはこちらをどうぞ→http://www.planetplusone.com/roadshow/lateshow.php

 私は以前、この映画を観て考えたことを長々と書き、さらに他の映画の記事でも言及しました。それ故に、とても印象に残っている作品です。関西在住で興味のある方は、ぜひご覧になってください。

たまには洋画の情報を。

 明日(13日)の夜の新文芸坐オールナイトは、ダルデンヌ兄弟特集。『イゴールの約束』『ロゼッタ』『息子のまなざし』『ある子供』の4本が上映されます。最初に上映される『イゴールの約束』は、先月『訪問者』の記事の最後に書いたとおり、私の好きな映画。おススメです。興味と時間のある方は、ぜひご覧になってみてください。
 ちなみに他の3本も私は全て観ているのですが、どの作品もそれぞれ見応えはあると思います。ただ『息子のまなざし』は、ストーリー内容と映像スタイルが食い違っているような気がして、個人的にはあまり好きではないです(設定がやや現実離れしているにもかかわらずドキュメンタリー風に撮影されているので、違和感を持ちました)。

 あと先週末に『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』を観たところ、なかなか面白かったので記事にしようと書き始めたのですが、時間が無くてまだ少ししか書けていません‥‥。とりあえず、「おちょくり系のギャグやパロディが好き」「グロテスクな描写も下ネタも平気」「ベトナム戦争映画をある程度観ている」の3つが当てはまる方にはおススメ。こちらは全国各地で上映中です。

特集上映 「脚本家 荒井晴彦」

12月6日~27日の土曜・日曜・祝日を中心に川崎市市民ミュージアムにて開催
上映会場の公式サイト→http://www.kawasaki-museum.jp/display/cinema/#A027

 もう20年くらい前でしょうか、澤井信一郎監督の『恋人たちの時刻』を観た時のこと。劇中にヒロインの持ち物として、榊原淳子の詩集『世紀末オーガズム』が登場し、その中の一編がヒロイン(河合美智子)の声で音読されたのですが、私はその詩をそれより少し前にたまたま読んでいて、しかもかなり印象に残っている詩だったので、何だかギョッとしました。
 後に読んだ澤井監督のインタビューによると、その詩の使用はシナリオの指定、つまり脚本を書いた荒井晴彦の指定だったそうです。
 
 それから長い年月が過ぎ、私が赤坂真理の小説にハマって次々に読んでいた頃、何かの雑誌に荒井氏が「赤坂真理の『ヴァイブレータ』を映画化したい」と書いていて、「へえ~」と思っていたら数年後、本当に彼の脚本で映画化されたので、観に行きました。さらに私は絲山秋子の小説にハマっていた時期もあるのですが、またもやその頃「荒井晴彦が絲山秋子の『イッツ・オンリー・トーク』を映画化しようとしている」という情報を知り、「へえ~」と思っていたら、やはり彼の脚本で映画化され(タイトルは『やわらかい生活』)、観に行きました。
 
 そんなわけで、どうやら私は詩や小説の好みが荒井氏と少し似ているようなのですが、では私が荒井氏の作品を好きなのかというと、これは微妙です。
 
 例えば『ヴァイブレータ』(監督は廣木隆一)。この映画を観た時、あるシークエンスが妙に引っかかりました。ヒロインの妄想を描いたシークエンスで、大まかな内容は原作と同じなのですが、後半の細かい部分がかなり変えられていたのです。
 もちろん小説と映画は表現方法が違うので、必要に応じて改変しなければいけないということは分かっていますが、その部分に関しては、映画全体の流れから見て絶対に原作どおりの方がいいと私は思ったので、改変には疑問を感じました。(これについては以前詳しく書いたので、興味のある方はこちらをお読みください→http://kobiri.blog108.fc2.com/blog-entry-9.html
 
 今回この記事を書くにあたって、『年鑑代表シナリオ集』に掲載されている『ヴァイブレータ』のシナリオを読んでみたところ、その気になる部分は、完成した映画ほどではないものの、原作とは確実に違っていました。つまり、廣木監督だけでなくまず荒井氏が、ここを改変するべきだと判断したわけですね。そしてやはり私は、このシナリオ全体から考えても、例の部分は原作どおりの方がいい! と思います。
 まあ私は素人なのでこの部分の改変の必要性に気づいていない、ということなのかもしれませんが。それだけではないような気がします。恐らく私と荒井氏は、同じ詩や小説に惹かれていても、それらの捉え方や解釈の仕方が違うのでしょう。

 しかし何だかんだ言っても、今日から開催される荒井氏の特集上映に並ぶ18本の作品のうち、半分以上を既に観ているのですから、私は彼の作品にけっこう注目してきたのかもしれません。ちなみに今回上映される作品の中で、既に観て面白いと思ったり感銘を受けたりしたのは、『新宿乱れ街 いくまで待って』『リボルバー』『赫い髪の女』『恋人たちの時刻』です。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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