『クローンは故郷をめざす』

2008年 日本 監督・脚本:中嶋莞爾 出演:及川光博、嶋田久作、品川徹、矢島健一、永作博美、塚本僚、塚本将、石田えり
上映中  公式サイト→http://clone-homeland.com/

 先週、シネカノン有楽町1丁目にて鑑賞。これまで自主映画作家として国内外の賞を多数受賞してきた中嶋莞爾監督の、商業映画デビュー作。
 全体的な流れにおいても細部の描写においても、観客がかなり自由に解釈したり想像したりできるように作ってあるので、人によって捉え方はさまざまでしょう。例えば誰かがこの作品を観た人々に「これは何についての映画?」と質問した場合、「生と死についての映画」「魂についての映画」など色々な答えが返ってきそうです。そして私なら、「記憶についての映画」と答えます。

 ヒト・クローン技術が合法化され始めた近未来。殉職した宇宙飛行士の耕平(及川光博)がクローンとして再生されるものの、技術的問題で「失敗作」となったため、研究所の所長(嶋田久作)は新たに耕平のクローンを作り、今度は成功させます(なお当然ながら耕平のクローンたちも及川光博が演じています)。
 1体目のクローンが「失敗作」と見なされたのは、耕平の少年時代の記憶のままで蘇ってしまったから。幼い頃の耕平(塚本僚)は、大自然に囲まれた村で母(石田えり)と双子の弟・昇(塚本将)と暮らしていましたが、ある日危険な川に入った耕平を助けようとして、昇が溺死してしまいます。
 1体目のクローンは、この頃の記憶を強く反映した言動を繰り返し、ついには川に落ちてきた宇宙服の中に昇が居ると錯覚、その宇宙服を背負って耕平の故郷の方向へ歩いていきます。やがて2体目のクローンも、1体目の後を追って故郷に向かいます。

 劇中、亡くなった孫娘を違法にクローン再生させた過去を持つ博士(品川徹)が、死者とそのクローンの間には「魂の共鳴」が起きる、と主張。映画はこの主張を肯定しています。しかもその「魂の共鳴」をやや超常現象的な描写で表現しているので、この映画を昨今流行りのスピリチュアル系と捉えることもできるでしょう。しかし私自身は、あまりそういう風に捉えていません。それは私がこの映画を通じて、魂というよりも記憶の存在や凄さを強く感じたから。
 
 1体目のクローンに記憶障害が起きたのは、作る側に技術的失敗があったとはいえ、やはり根本的には、耕平の中で昇の死に関する記憶があまりにも突出していたためでしょう。辛い記憶であればあるほど、いつまでも濃く強く持ち続けてしまう。そんな人間のどうしようもない悲しみを、観ていて感じたのです。
 そしてさらに、「自分が他者を死なせてしまった記憶」すなわち「自分がある種の加害者だという記憶」をこれほどまでに深く抱えている人物像を、美しいと思いました。終盤での、2体目のクローンが1体目のクローンの手にある物を持たせるシーンは、同時に耕平と昇のシーンでもあり、耕平の昇に対する思いまでもが伝わってきて、とても印象深いです。

 ところで、パンフレットによると。ヴェンダースをはじめとするプロデューサー陣が、予算の問題などから強力にHD(高解像度デジタルビデオ)撮影を勧めたものの、中嶋監督はそれを拒否して35ミリフィルムでの撮影を決めたのだとか。最近は、予算が潤沢でない場合はデジタルビデオ撮影を選択する監督が多いので、これはかなり珍しいケースですよね。
 そしてこの中嶋監督の決断、正解だったんじゃないでしょうか。今回の作品は、果てしなく続く草原や川など大自然の風景を撮ったカットが多いので、フィルム撮り映像ならではの艶や奥行きが、非常に効果を上げていると思います。まあ、私が個人的にフィルムの画質が好きだというのもあるんですが。
 
 さらにこの映画、美術監修は大ベテランの木村威夫が担当。「故郷」のシーンでの古い日本家屋の造りなど、さすがに素晴らしいです。とにかく撮影や美術がしっかりしているので、興味のある方はDVD発売を待つよりも、なるべくスクリーンでご覧になった方がいいですよ。

『ラーメン必見伝 ~麺VSスープ 至極の兄弟対決篇~』

2006年 日本 監督・脚本:城定秀夫 脚本:城定由有子 出演:水元ゆうな、吉岡睦雄、中村英児、畠山寛、ホリケン。 (DVDレンタルあり)

 昨年、ケーブルTVを受信している友人から、チャンネルNECOで深夜に時々放送されるという“ネクスタシー”なるレーベルのOV作品群の話を聞き、そのレーベルにちょっと興味を持ちました。
 まず、名前自体が微妙に面白い‥‥。どの作品にもセックスシーンがあるらしいので、おそらく“ネクスト・エクスタシー”を縮めたものなのでしょうが、語感としてはネッシーやネクター(果肉飲料)に似ていて何となくヘン。さらに、こういう官能系のレーベル名を付けてエロを売りにしているわりには、グルメ対決を題材にした作品が妙に多いというのも、これまた面白いというか不思議というか。

 そんなわけで先日、ネクスタシーの中の1本、『ラーメン必見伝』の録画テープを借りて観ました。監督・脚本は城定秀夫。私は、彼が脚本を担当した『ヒロ子とヒロシ』を観て少々ガッカリしたので、それ以外の彼の作品を観ていませんでした。しかし縁あって(?)出会ったこの作品は、かなり良かったです。

 恋人(畠山寛)に去られたうえ勤務先のメイド喫茶が潰れて傷心の珠子(水元ゆうな)は、高志(吉岡睦雄)と浩二(中村英児)の兄弟が切り盛りするラーメン屋で働くうちに明るさを取り戻すが、兄弟の両方が珠子を好きになってしまい‥‥という内容。適度にセックスシーンあり。
 要するに、メイドさんとラーメンとエロという、ある種の男性層が好きそうなものをあれこれ詰め込んだ作品で、おそらくメーカー側からそういう要請があったのだと思いますが、その要請にきちんと応えつつ、切なくも爽やかな余韻の残る感じのいい作品に仕上がっています。
 
 特に私が感心したのは、俳優さんたちの魅力や実力が充分に引き出されていること。この種の作品だと準備や撮影の期間はかなり短いはずなのに、演技経験の少ない主演女優もわりと安定した芝居ができているし、吉岡睦雄と中村英児はラーメンを作るシーンでちゃんとプロの料理人に見えるし。これらはもちろん本人たちの力あってのものですが、監督の指導や撮り方(見せ方)によるところも大きいでしょう。

 それにしても、この作品の吉岡睦雄、すごくイイです。料理のシーンに限らず、全体的に演技がしっかりしていて雰囲気も味わい深い。ちょっとビックリしました。
 というのも私は今まで、彼が出演しているピンク映画を何本か観たり、上映会でご本人を間近に拝見した印象として、失礼ながら「何だかボヤ~っとした人」としか思っていなかったので。役柄的にも、いまおかしんじ監督の『たまもの』の影響か、「フラフラしていて頼りない感じの青年役が似合う」というイメージだったのですが、今回はそういう役とは全く違う、頑固で職人気質で女性に対して純情な料理人を的確に演じています。
 
 作品の序盤では、高志の頑固(というか無愛想)な面が強調されていて、しかも浩二が高志の外見について「カマキリみたいな気持ち悪い顔」(!)と発言するシーンがあるので、「そういえば吉岡氏ってカマキリに似てるかも~」などと思いながら観ていたのですが、ストーリーが進むにつれてだんだんイイ男に見えてきて。特に、高志がスープの研究に没頭している姿を珠子が「カッコいい」「ステキ」と褒めるシーンでは、本当にとてもカッコよく見えました。 
 
 こういう前半と後半でギャップがあるというか、途中から飛躍的に魅力が増すキャラクターというのは、非常に儲け役ですよね。チラッと調べたところによると、城定氏は自分の作品に吉岡氏をたびたびキャスティングしているとのことで、私としては今回、吉岡氏の新たな魅力を思い知るとともに、城定氏の彼に対する信頼と愛情を感じました。

『アラビアのロレンス』完全版

1962年(オリジナル版) 1989年(完全版) イギリス 監督:デヴィッド・リーン 脚本:ロバート・ボルト 出演:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、アンソニー・クイン、アレック・ギネス
上映中  劇場公式サイト→http://www.cinemabox.com/schedule/times/index.shtml

 このブログとしては珍しく、外国映画の記事が続いています。しかも今回は、世界的に有名なあの『アラビアのロレンス』。実は劇場で観た経験が無く、いつか大きめのスクリーンできちんと鑑賞したいと思っていたところ、テアトルタイムズスクエアで完全版のニュープリントバージョンが上映されることになり、観に行きました。
 
 第1次世界大戦中、イギリス人でありながらアラブ民族の自由と独立のために戦い、「砂漠の英雄」と謳われた実在の人物、T・E・ロレンス。彼のアラビア体験記『知恵の七柱』を、空前絶後の壮大なスケールで映画化した‥‥というのがこの作品の一般的な紹介の仕方。たしかにそういう作品ではあるのですが。

※以下の文章では終盤の展開に触れています。ネタばれOKの方はお読みください。

 私にとってこの映画は、何よりもまず「強烈な挫折の物語」です。とにかく終盤におけるロレンスの挫折と凋落ぶりが、非常に印象的。一時は神のように崇拝され英雄として君臨していた男が、結局は利用され裏切られ、自らの脆さや残虐さを知った末に、あっけなく死んでいくのですから。
 しかもこの「あっけなく死んでいく」という部分が映画の冒頭で描かれ、それに続く葬儀のシーンでは、彼を称える人だけでなく批判する人も登場。さらにこのシーンで、「私は彼と握手したことがある」と誇らしげに語る人物が出てくるのですが、終盤で、実はその人物は、挫折し落胆しきった状態のロレンスと握手していた‥ということが明かされます。
 この構成から察するに、作り手側はT・E・ロレンスの光よりも影の部分に興味を持っていたのでしょう。いや、まあ、私の主観もかなり入っているのかもしれませんが。ついでにもうひとつ、私が感じたことを書いておきます。

 この映画におけるロレンスのキャラクターは、知的で飄々としていてちょっと変わり者で、意志が強く行動力もある、というもの。普通こういうキャラクターは、映画やドラマなどの中で、救世主的な役割を果たす場合が多いですよね。知恵と勇気で危機的状況を改革するとか、無気力な者たちを刺激して活性化させるとか、悩める人々に前向きに生きるヒントを授けるとか。概して、物語をハッピーエンドに導くキーパーソンであることが多いです。
 しかし『アラビアのロレンス』では、そういうキャラクターが途中まではまさに救世主のごとく活躍するものの、結局は無残にも挫折して、あっけない最期を迎えます。事実に基づいた映画ということもあり、観ていて「この世に救世主など居ない」「並外れた力を持つ個人など居ない」と言われているような気持ちになりました。

 上映時間は227分、相当長いですが途中休憩も入りますし、興味のある方はこの機会にぜひご覧ください。おススメします。私はいわゆる「映画賞を総ナメ」的な大作・名作の類にはあまり惹かれない人間ですが、そんな私でもこれはやはり偉大な映画だと思うので。また、今回のような大きめのスクリーンで観ると、まるで自分が砂漠に居るような不思議な感覚も味わえますよ。

 次の記事ではガラリと変わって、某邦画(というかOV)について書きます。

『インファナル・ディパーテッド』

2006年 香港 監督・脚本:ハーマン・ヤオ 出演:ニック・チョン、フランシス・ン、アンソニー・ウォン (日本未公開、DVD発売&レンタル中)
発売元の公式サイト→http://www.takeshobo.co.jp/mgr.m/main/shohin

 あけましておめでとうございます。さて年末年始には3本ほど映画やDVDなどを観たので、それらについて書いておきます。
 まずは『インファナル・ディパーテッド』。この邦題は要するに、『インファナル・アフェア』とそのハリウッド・リメイク版『ディパーテッド』という2つのタイトルを、テキトーにくっつけただけ(たぶん)。
 香港映画だし潜入捜査官モノだし‥という理由は分からんでもないですが、こういう邦題がついていると中身もテキトーだと誤解される確率が高いので、ちょっとどうかと思います。実際には、独自の視点できちんと作られた映画ですし。ちなみに原題は『白黒道(ON THE EDGE)』。

 潜入捜査のため長期間マフィアの一員になりすまし、ボスであるダーク(フランシス・ン)を逮捕したホイサン(ニック・チョン)。やっと警察官として復職したものの、警察内部ではマフィアとの内通を疑われ、マフィアからは「裏切り者」と罵られ、苦しい立場に。しかもダークが刑務所内で自殺してしまい‥‥。
 
 つまりこれは、「潜入捜査の過程で生じる苦悩」ではなく、「潜入捜査を成功させた瞬間から始まる苦悩」を描いた作品。困難な任務を終えて復職したホイサンを待っていたのは、同僚たちの冷ややかな目と、お偉いさんから形式的に授与される功労賞、そして内部調査室による尾行。結局彼は、警察という巨大な組織に利用されたようなもの。しかもマフィアの方にも、彼を利用しようとする者や陥れようとする者が出てきて、ホイサンの孤独と絶望は深まっていきます。
 というわけで、かなり内容的に救いの無い映画。ただ、アンソニー・ウォン演じる同僚刑事が、冷たいように見えて実は温かみがあったり、ダークが単なるワルのボスではなく、なかなか魅力的な人物だったりするあたりは、観ていてホッとします。あ、でも、ダークが魅力的だからこそ彼の自殺が重い意味を持つのであって。やっぱりほとんど救いは無いですね。

 メイン・キャストの3人は、前回の記事に書いた『エグザイル/絆』でも共演していました。で、その記事の最後にチラッと言及したアンソニー主演の『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウィルス』&『八仙飯店之人肉饅頭』の監督はハーマン・ヤオですが、この『インファナル・ディパーテッド』の監督もハーマン・ヤオ。同姓同名の別人ではなく同一人物だそうです。
 個人的に『エボラ~』のエロ・グロ・バカっぷりがあまりにも強烈だったので、ヤオ監督がこういうシリアスな映画も撮れると知って、ちょっとビックリ。器用やなあ。ある意味、凄い監督だと思います。
 
 そういえばこの映画、現在(ホイサンが復職してから)の描写の中にたびたび過去(潜入捜査中)の描写が挿入されるという、やや複雑な構成なのですが、決して分かりにくいなんてことはありません。なぜならホイサンの髪が、現在パートでは黒髪、過去パートでは金髪になっているから。これ、設定としても非常に理にかなっていますよね。
 内容的には重めの映画ですけど、こういう部分で視覚的に分かりやすく作ってあるし、上映時間も90分と短めなので、構えずに観ることができますよ。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。

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