『押入れ』

(成人映画館での封切時のタイトルは『味見したい人妻たち』、再映時のタイトルは『疼き奥さん いい味たっぷり』)
2003年 日本 監督・脚本:城定秀夫 出演:KaoRi、白土勝功、田嶋謙一、橘瑠璃、サーモン鮭山、佐倉麻美、飯島大介

 5日前に、シネロマン池袋にて鑑賞。城定秀夫氏の監督デビュー作。ストーリーは、「元教師の人妻が、かつての教え子である男子高校生を自宅の押し入れに住まわせ、夫の不在時に関係を持つ」というもの。
 ピンク映画でこのストーリーだと、いかにも好色そうな美女が年下男を支配しているようなイメージを持たれるかもしれませんが、実際にはそういう映画ではありません。この人妻と男子高校生のカップルには、どこか可愛らしいというか、微笑ましい雰囲気さえ感じられます。

 おそらくこれは人妻のキャラクターや、心理描写の仕方から来ているのでしょう。彼女の容姿もファッションも喋り方も、やや乙女チックだし。時折、彼女の「心の声」が書き文字で表示されるという演出も、ある種の少女マンガのよう。
 さらに言えば、男子高校生のキャラクターも、「不幸な境遇で育ったモテ系の美少年」という、乙女ワールドの住人っぽい設定。そして彼女と彼は、性的な関係があるにもかかわらず、仲の良い姉・弟のようにも見える。

 ではこの映画、妙に乙女チックすぎてエロさが薄いのかというと、全くそんなことはなく。むしろ、かなりエロいです。性描写が多いし、しかもじっくりと丁寧に描かれているし。
 つまり、なんというか‥‥乙女チックかつエロエロ、なのですよ。この2つは普通、あまり共存できないはずなのに、この映画では不思議に共存している。

 ちなみに「乙女チック」というのは、やや大げさな表現で、より正確に言うと、「甘さ(スウィートな感じ)や淡さがある」といったところ。こういう、いわゆる背徳的なストーリーの場合、暗い映画やドギツイ映画になりがちなのに、それとは逆の、甘く淡い浮遊感のようなものを漂わせた映画になっているのは、ある意味、凄いです。
 そういえば城定監督の作品で、『どれいちゃんとごしゅじんさまくん』というのがありまして。これは、恋人の奴隷として生きる少女を描いた映画で、世間一般の感覚では、かなり背徳的なストーリーなのでしょうが、作品自体には、乙女チックな甘さや明るさが漂っています。
 もしかしたら城定監督は、世間が背徳的だと見なすような人や事柄を、むしろ可愛いと思っているのかもしれません。

『ばかもの』

2010年 日本 監督:金子修介 脚本:高橋美幸 出演:成宮寛貴、内田有紀、白石美帆、浅田美代子、小林隆、浅見れいな、池内博之、中村ゆり、古手川祐子、岡本奈月
※6月3日にDVD発売(レンタル同時リリース)
公式サイト→http://www.bakamono.jp/

 10日ほど前、三軒茶屋中央劇場にて鑑賞。
 金子修介監督には色々な特徴があるものの、私にとっては、「アイドル的な女優を可愛く(時にはエロく)撮る」というイメージが強いです。だから今回は、その延長線上という感じで、元アイドルの内田有紀と美形の成宮くんをとにかく綺麗に撮っているんだろうな~と思いつつ観はじめたわけですが、ありゃ、なんだか違う。
 必要以上に綺麗に撮ってはいない。

 実家に住み、地元の大学に通うヒデ(成宮寛貴)。バイトはするものの勉強はしない。優しい両親(小林隆・浅田美代子)や姉(浅見れいな)に見守られての、気ままな暮らし。
 ある日ヒデは、年上の女・額子(内田有紀)と出会う。彼女の虜になり、のめり込み、結局ふられる。酷いふられ方。
 やがて就職したヒデは、またしても年上の女・翔子(白石美帆)と付き合う。いつも優しく世話を焼いてくれる翔子。しかしヒデは異様に酒を飲むようになり、荒れていく。友人・加藤(池内博之)の警告も無視し、飲み続ける日々。人前で酔って暴れ、仕事も欠勤続き。職も友人も恋人も、失う。
 ついに、飲酒運転で事故を起こしてしまったヒデ。アルコール依存症の専門病院に入院する。そして退院し、新たな生活を始めた頃、額子の母(古手川祐子)と再会。額子の現在の様子を聞き、彼女の住む町へと向かう。約10年ぶりに会った額子は、変わり果てた姿で‥‥。

 端的に言うと、この映画、アルコール依存症をかなり丁寧に描いています。悪化する過程、良くなる過程、せっかく良くなってきたのにまた飲もうとする過程。それらを、深刻になり過ぎず、しかし重いものとして、きちんと細かく描いている。
 ただひとつ気になったのは、禁断症状に苦しむシーンなどで、ホラー映画風の劇伴が使われていること。ちょっと違和感がありました。といってもそれは些細な問題で、全体的には演出も演技も充実しており、引き込まれました。

 つまり今回、成宮くんの美貌よりも芝居を堪能できたわけで。内田有紀についても同様。例えば、ヒデと額子が10年ぶりに会うシーンでは、待ち合わせ場所で2人が互いを見つけるという、ただそれだけの描写でさえ、彼らの表情や佇まいから、さまざまな思いが滲み出ていて、胸を打たれました。
 成宮くんも内田有紀も整った容姿の持ち主なので、どんなシーンでも、ある程度は綺麗だったりカッコよかったりするわけですが、その綺麗さやカッコよさよりも、彼らが醸し出すものに目が行くんですよね。金子監督であれば、美しい人をより美しく見せることもできるだろうに、今回はそれをせず、あえて芝居を前面に出している気がしました。

 ところで、この作品の原作は絲山秋子の同名小説。両者を比べると、映画化にあたって細部がいくつか改変されていることが分かります。そしてそれらは、いずれも成功していると思うのですが、特に私が感心したのが、ヒデの家族のキャラクターの改変。
 原作では、父親はわりと無愛想で、母親はパンチパーマ(!)をかけていて鬼にそっくり、姉も鬼系で田舎のおばさんっぽい、という設定。しかし映画では、父・母・姉ともに明るく優しく、母と姉はなかなかの美人で垢ぬけていて‥‥と、まるで正反対。
 結果的に映画の方では、ヒデのアルコール依存症について、こう解釈できるようになっています。「優しい家族に甘えて生きてきた男の子が、恋愛によって初めて挫折を知り、それを引きずったあげく、アルコール依存症になった」。

 これは私としては非常によく分かるというか、腑に落ちます。特に、「優しい家族に甘えて生きてきた男の子→アルコール依存症」というところ。まあ要するに、身近にそういう感じの男性が何人かいまして。
 私の知る限りでは、母親や姉に大事にされて育った男性というのは、決して悪い人じゃないけど、基本的に甘えているところがあって、何かで挫折すると過剰にショックを受け、荒れる傾向がある(もちろん皆が皆‥というわけではないですが)。
 映画『ばかもの』は、そういうタイプの男性の破滅と再生を、丁寧にしかも生き生きと描いた作品として、グッときました。

 最後にひとつ。この映画でも、近年の金子作品の常連である螢雪次朗氏が、キラリと光っています。ワンシーンのみの出演ですが、ヒデの親戚のオジサン役で、悪気はないけど甥や姪に余計なことを言ってしまうという、どこの親族にも1人はいそうなオジサンを、絶妙に演じています。「螢さん、さすがやな~」と改めて思いました。

三茶

 先日、三軒茶屋中央劇場で、『ばかもの』(金子修介監督)と『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』(石井隆監督)を観ました。どちらも良かったです。そのうち時間ができたら、詳しい記事を書きたい。ちなみにこの2本‥‥というか、この2人の監督、かなり作風は違うものの、経歴の面で大きな共通点があります。まあ、分かる人にはすぐ分かりますよね。
 今週の金曜(5月6日)まで上映されているので、興味のある方は、ぜひどうぞ。三軒茶屋中央劇場は、外観も内装も昭和の香りを濃く残していて、とても風情があります(座席も昔のままなので、座り心地はあまり良くないですが)。

 それと私、しばらく外国映画のことを書いてないですけど、書いてないだけで、観てますよん。最近観た中で面白かったのは、『ブラック・サンデー』(DVDにて)。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。

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