『百年の時計』

2013年 監督:金子修介 脚本:港岳彦 出演:木南晴夏、ミッキー・カーチス、中村ゆり、近江陽一郎、小林トシ江、鈴木裕樹、岩田さゆり、桜木健一、螢雪次朗、野口雅弘、金子奈々子、宍戸開、池内ひろ美、仁科貴、水野久美、井上順
★テアトル新宿ほか、各地の劇場で公開中
公式サイト→http://www.100watch.net/

 数日前に、テアトル新宿にて鑑賞。
 ところでこのブログ、個別の作品評をあまり書かなくなったこともあり、「一般映画(日本)評」のカテゴリーはすごく久しぶり。で、「前回は何だったのかな~」と見てみると‥‥『ばかもの』評。金子修介監督の作品が、2本続くことになります。
 
 といっても私、特に金子監督のファンというわけではなく。この『百年の時計』に関しても、例えば音楽の使い方とか、あまり好きになれない点がいくつかあるし。
 でも、それでも、「観てよかった」と断言できます。細部に引っかかるところがあっても、全体としては非常に見応えがありました。

 あ、それと、ブログの流れということでもうひとつ言えば。最近、私の故郷・愛媛の劇場について何度か書いてきて、さらに今回は香川が舞台の映画ってことで、なんか「四国シリーズ」みたいになってますが。これも、たまたまです。
 ただ隣県の出身者としては、香川の人、うらやましい。こういうご当地映画を持っているなんて、ほんと、うらやましいですよ。

 今「ご当地映画」と書きましたが、もう少し説明すると、この作品は「ことでん(琴平電鉄)開通100周年記念」の映画。つまり香川の電鉄会社の依頼によって作られた、ご当地映画というか、町おこし映画というか。
 しかし金子監督のインタビューを読むと、琴平電鉄も香川県も、映画の内容にはいっさい口出ししなかったそうで。それは作品を観れば分かります。
 なぜって、この作品、ちょっと(かなり?)独特だから。

 あらすじとしては‥‥美術館の学芸員・涼香(木南晴夏)が、地元出身の現代アートの巨匠・安藤行人(ミッキー・カーチス)に頼まれ、古い時計にまつわる人探しをするうちに、行人の秘められた恋が明らかになり‥‥というもの。
 結末は伏せますが、「明るく前向きな終わり方」とだけ言っておきます。そしてストーリーは全体的に、とても分かりやすい。(ついでに言うと、劇中に観光地や名産品が適度に出てくる。)これらの点では、いかにもご当地映画、という感じです。

 しかし描写や表現は、ちょっと実験的でアート映画風。なんというか、時空を超えたシュールかつファンタジックな表現が、途中からときどき織り込まれてクライマックスで炸裂! みたいな。
 その「時空を超えたシュールかつファンタジックな表現」というのは、例えて言うならフェリー二やベルイマン、かなあ。まあベルイマンについては、行人のセリフにチラッと出てきたから連想した、というのもありますが。

 とにかく「ご当地映画風」と「アート映画風」という、かなり対照的な要素が混ざり合って、独特の作品世界が成立している。面白いです。

 そしてこの映画、面白いだけではなく感動的。や、「感動」なんていう言葉はなるべく使いたくないんですけど、クライマックスのあたりで体が小刻みに震えて涙が出てきたので、これはやはり「感動」なのかなあ、と。
 
 具体的に言うと、千代美(小林トシ江)の長いモノローグのところ。千代美は年配の女性で、ストーリー的には脇役なのですが、ここで彼女の人生や感情が一気にブワッと押し寄せてくるわけです。
 このモノローグの内容もいいし、小林さんの口調や映し出される姿もいい。さらに言えば、そもそも千代美の人物造形がいい。
 メインの登場人物である行人と、脇役の千代美。同じ年配者でありながらあまりにも違うこの2人の対比が、グッと来るのです。

 行人は若いうちに故郷を飛び出し、都会でアーティストとして成功、国際的に脚光を浴び、言動は自由奔放。非常に華やかな人物。
 千代美は、おそらくこの小さな町からほとんど出たことがない。戦争で不自由になった足を引きずりつつ、暗く、静かに、言いたいことも言えずに生きてきた。

 この2人の人生の、どちらがいいとか悪いとかではなく、いろんな人生がある、ただそれだけ。そして華やかな人にも辛い過去があり、暗く生きてきた人でもこれから希望を持つことはできる。
 考えてみれば当たり前のことなのですが、こういうことを理屈ではなく情感として表現するのって、きっとすごく難しい。そのことに成功している映画、だと思います。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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