『バット・オンリー・ラヴ』と『夢の女 ユメノヒト』

『バット・オンリー・ラヴ』
2015年  監督・脚本:佐野和宏  出演:佐野和宏、円城ひとみ、酒井あずさ、蜷川みほ、芹澤りな、柄本佑、飯島洋一 ほか

現在、上映中  公式サイト→http://www.but-only-love.com/

『夢の女 ユメノヒト』
2015年  監督:坂本礼  脚本:中野太  出演:佐野和宏、伊藤清美、和田華子、西山真来、小林節彦、川瀬陽太、吉岡睦雄、櫻井拓也、伊藤猛 ほか

現在、上映中  公式サイト→http://www.interfilm.co.jp/yumenohito/


今回、イラストはナシです。
以前、佐野和宏さん(今より少し若い頃の)を描いて載せたことがあるので

さて、佐野さんが18年ぶりに監督業に復帰し自ら主演も務め、さらに坂本礼監督の新作にも主演している‥というのは前々から聞いていたのですが、その2本が今、上映中。
先日、観てきました。

まずは、監督&主演の『バット・オンリー・ラヴ』。
ガンで声を失くした男。
過去には複数の愛人がいたりもしたが、病気をしてからは、まるで生まれ変わったかのように、妻と仲良く穏やかに暮らしている。
ところがある日、娘が自分の実の子ではないと知り‥‥。

つぎに、坂本礼監督の『夢の女 ユメノヒト』。
福島で生まれ育ち、10代で地元の精神病院に入院した男。
震災と原発事故で避難中、とっくに病気が治っていることが分かり、約40年ぶりに外の世界へ。
さらにガンで声を失った彼は、(遠い昔にお金を払ってした)初体験の相手に会いたくて、東京に向かう‥‥。

つまり、この2本の映画での佐野さんの役柄は、(ご本人の現状である)ガンで声を失ったということ以外は、きわめて対照的なのです。
『バット‥』の男は、結婚していて子どもがいて、元愛人がいて、酒と煙草が大好きで。
『夢の‥』の男は、女性にほとんど縁が無く、家庭を持ったこともなく、酒も煙草もやらない(やれない)。

この対照的な2人の男を、佐野さんは、表情と身体表現だけで見事に演じています。さすがです。
と褒めたものの、実は、『バット‥』のほうの芝居(というかご自身に対する演出)には、少し疑問を感じます。

主人公の、傷つき方。
彼は、傷ついた時や思いつめた時、声にならない声で叫んだり、延々と走り続けたり、わりと「絵になる」ことをするんですよね‥‥。

「人前では虚勢を張って、絵になることをする」のなら分かりますが、ひとりの時でも、なんだかいつも、ある程度の「カッコよさ」を保ってしまっている。
ひとりの時ぐらい、もっと無様に、みっともない感じで泣いたりしてほしい。
でないと、この主人公の辛さが今ひとつ伝わってこない。と、私は思います。

実はこのことは、昔からちょっと気になっていました。

私の佐野作品との出会いは20年ほど前で、まず、彼の監督作品のほとんどを占める「監督し出演もしている映画」を何本か観たのですが、惹かれながらも同時に、苦手意識も持ってしまいまして。
さっき書いたような、カッコつけてるというか、やや自意識過剰な感じに、どうしても違和感があって。
だからその後、監督作品はほとんど観てないです。

それに対して、出演作(ご自身で監督してないもの)は、ピンク映画を中心に、一般映画や学生の卒業制作映画など、いろいろ観てきました。
他の監督の映画に出ている時の佐野さんは、自意識みたいなものが全く感じられず、役柄の人物に没入しきっているように見えて、そういうところが本当に素晴らしいと思うのです。

今回の『夢の‥』でも、おどおどした冴えない初老の男性に完全になりきっていて、それゆえに、その冴えない男性が、とても愛おしい存在として輝いています。

ちなみにこの映画では、相手役の伊藤清美さんも素晴らしいので、2人が揃っているシーンは、すなわち名シーン。
特にクライマックスの、伊藤さんが佐野さんに延々と語りかけるラブシーン。
この長台詞の内容もすごく良くて(脚本は中野太氏)、観ていてウーッと泣いてしまいました。
あと、あのカラオケのシーンも、たまらん。

というわけで。
この文章を書いていて、自分が佐野さんの出演作ばかり追いかけ監督作をあまり観てない‥という事実に、改めて気づきました。
普段は全然、意識してなくて。

意識してないからこそ、先日、映画館のロビーで佐野さんをお見かけした時、長年のファンです~みたいなことを言って、握手していただいたのですが。
今考えると、私のような人間が握手していただくなんて、失礼なことをしてしまいました‥‥反省しております‥‥。

『ディアーディアー』

          CCF20160405.png

2015年  監督:菊地 健雄  脚本:杉原 憲明  出演:中村 ゆり、斉藤 陽一郎、桐生 コウジ、山本 剛史、松本 若菜、柳 憂怜、政岡 泰志、佐藤 誓、染谷 将太 ほか
各地で上映中  公式サイト→http://www.deardeer-movie.com/index.html


数日前に新文芸坐にて鑑賞。
タイトルの『ディアーディアー』は、英語で書くと「Dear DEER」。「親愛なる鹿」。

子供の頃、幻の鹿「リョウモウシカ」を発見して一躍時の人となったものの、やがて目撃は虚偽とされ、「うそつき」のレッテルを貼られた三兄妹。
それから二十数年後。
長男の富士夫(桐生コウジ)は家業を継いだものの莫大な借金を背負い、次男の義夫(斉藤陽一郎)は精神を病んで病院暮らし、末娘の顕子(中村ゆり)は駆け落ちの果てに酒びたりの生活。
父の危篤をキッカケに、三兄妹は久しぶりに再会するのだが‥‥。

劇中で、義夫の精神疾患は「シカ事件」が原因、ということになっている。
が、三兄妹の父親はかなり暴力的な人(子供を殴る)だった‥とも語られるので、義夫の病気も顕子のアルコール依存も、まず父親に原因があったと思われる。
たぶん、そのあたりの(父の)事情も含めての「シカ」なんですね。

だから三兄妹は、死にゆく父と、「シカ事件」と、両方に改めて向き合うことになる。

この映画、まず冒頭にアニメで「シカ事件」の説明があり、その後は実写で、三兄妹の再会→父の見舞い‥と進んでいくのだが、この序盤での桐生コウジが本当に素晴らしい。
弟や妹や町の人たちなど、常に全方位に気を遣い、常に穏やかに微笑み、でも心の底に鬱屈を溜めこんでいて、いつか爆発しそうな感じ。
そういう富士夫の感じを、実にうまく表現している。

「あ、このお兄さん、いつか爆発する‥‥爆発する‥‥」って、観てていきなり緊張しましたもん。
つまり序盤でもう、ググッと入り込んだわけです。

この映画のプロデューサーでもある桐生氏、彼の存在はとても大きいと思います。
といっても、もちろん、彼の仕事だけが突出している‥という意味ではなく。
脚本、演出、他の役者さんたちの芝居など、色んな要素がかみ合って、序盤からラストまで、ずっと入り込んだまま観ることができました。

脚本といえば、こういう、わりと地味な内容をオリジナル脚本として面白く書くのって、多分すごく難しいことだと推測するのですが、まだ30代の杉原憲明氏、うまいですね。

そして監督の菊地健雄氏も30代、しかもこれがデビュー作。
といっても、これまで色んな監督のもとで助監督を務めていたせいか、あまり新人らしくなく、早くも熟練の境地というか、すでに「過不足ない」という感じ。

彼の、「過不足ある」作品も観てみたいです。
一観客の勝手な願望としては。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク