『ナッシュビル』

1975年 アメリカ 監督:ロバート・アルトマン 脚本:ジョーン・テュークスベリー 出演:ジェラルディン・チャップリン、シェリー・デュヴァル、キース・キャラダインほか、とにかく大勢
 
 これまでアジア映画ばかり取り上げてきて、「そろそろ欧米の作品も‥」と思っていたところ、先日ちょうど映画祭で『ナッシュビル』を観ることができたので、この作品について書きます。
 
 アメリカでもっとも保守的な街であり、カントリー・ミュージックのメッカでもあるナッシュビル。大統領選挙を控え、ウォーカー候補の宣伝カーが走り回る中、さまざまな人々がこの街で過ごしています。
 地元の名士でカントリー歌手のヘヴン、選挙参謀のジョン、イギリスのBBCから派遣された記者と称する女性オパール。妻が入院中の老人ミスター・グリーン、その姪のL・A・ジョーン。療養中のカントリー歌手バーバラ、ロック・ミュージシャンのトム、歌手志望のスーリーン。ベトナム帰還兵のグレン、歌手を夢見て夫の元から逃げてきたアルバカーキ、過保護な母を持つ家出青年ケニーなど(メインの登場人物だけで20人以上)。
 映画では、彼らの数日間が描かれます。
 
 この作品はロバート・アルトマン監督の代表作といわれながら、諸事情により日本ではソフト化されておらず、長いあいだ上映もされていませんでした。私の場合、アルトマンの映画はけっこう好きでいろいろ観ているのですが、『ナッシュビル』は今回が初見です。
 
 観ていちばんに感じたのは、アルトマンはやはり反ハリウッド的・非ハリウッド的だということ。他の作品にも勿論そういう傾向はありますが、この作品では特に顕著な気がします。
 
 標準的な(ヒットを目指している)ハリウッド映画にとって大切な要素のひとつは、「登場人物が成長すること」です。愚かな人間が聡明さを獲得したり、利己的な人間が他人を思いやるようになったり、孤独な人間に友人や恋人ができたり。とにかく人物のマイナス面がプラス方向に変化することが大事なのですね。それによって観客は気持ちよく劇場を後にすることができてヒットにもつながる、というわけです。
 ところが『ナッシュビル』では、これだけ大勢の人物が出てくるのに、誰も成長しません。バカっぽい人はバカっぽいまま、軽薄な人は軽薄なまま、利己的な人は利己的なままです。
 
 例えばL・A・ジョーン。彼女は常に水着のような露出度の高い服を着て、重病の伯母の見舞いにも行かず、男と遊んでばかりいます。標準的なハリウッド映画だと、こういう娘はだんだん改心して真面目さや優しさを取り戻したりするものですが、彼女の場合はまるで変化ナシ。最後には決定的に酷い態度を取って叔父を激怒させます。
 
 また、ロック・ミュージシャンにして筋金入りのプレイボーイ、トム。この人、女性を口説くのが「生きがい」というほど情熱的でもなく、なんだか「日課」という感じで次から次へと口説きまくり、落としまくります。これまた標準的なハリウッド映画だと、こういう男性はやがて「運命の人」に出会って「真実の愛」に目覚めたりするものですが、そういう流れにはなりません。
 
 さらに、ウォーカー候補のキャンペーン・ライヴを仕切る選挙参謀ジョン。彼は音楽に興味は無く、あくまでも候補のキャンペーンを成功させるために、さまざまなミュージシャンと接触して出演交渉をし、彼らのステージを見に行ったりもします。で、そうこうするうちに少しくらい音楽に興味を持つかというと(ハートウォーミング系の映画だとそういう展開になる)、全くそうはならず、上手く立ち回ってビジネスに徹するのみです。
 
 そして歌手志望の若い女性スーリーン。彼女はとんでもなく歌が下手なのに自分の実力をわきまえず上昇志向をあらわにし、そのせいで他人からいいように利用されてしまいます。まあそこで考え直して別の生き方を模索するとかすればいいのですが、そうはならず、依然として「大物歌手と競演するの!」などと上昇志向ムキダシのままです。
 
 その他、例をあげるとキリがないのですが、とにかく「成長」や「プラス方向への変化」というものは、この映画には登場しません。むしろその逆がやたらと目に付きます。だから観ていてだんだん、やりきれない気持になってきます(この気持ちは多分、当時のアルトマンの現実認識でもあるのでしょう)。
 それ故に、ラストでのエピソードが際立って見えます。いちばん最後の部分なので詳述は避けますが、ある事件がきっかけで、ずっと冴えなかった女性に突如として光が当たるのです。ただこの光は、「成長」や「変化」というほど確実なものではありません。また、暗く皮肉な影の側面も併せ持っています。結局ここには、「影を伴うことでしか光は存在し得ない」という諦観があるような気がします。
 
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク