『四とそれ以上の国』

2008年 著者:いしいしんじ 
発行元の公式サイト→http://www.bunshun.co.jp/book_db/3/27/70/9784163277004.shtml

 書評などで紹介されているのを目にするたび少し気になっていた作家、いしいしんじ。気になりつつもまだ作品を読んでいなかったのですが、今回彼が四国を舞台にした短編集を発表したと知り、四国出身者としての興味もあって読んでみました。
 まず、タイトルがいいですねえ。『四とそれ以上の国』。これは本全体のタイトルで、中に収められている5篇の短編小説のそれは、『塩』・『峠』・『道』・『渦』・『藍』。いずれも内容は、かなりシュールです。絵で言えば、細密な抽象画風。一見すると(一読すると)「ワケが分からん」という感じですが、その世界にグッと入ってしまえば、怖かったり面白かったり嬉しかったり。感情を揺さぶられます。また「意味」を見つけたい人は、その人なりに見つけることもできそうです。

 例えば、『塩』の序盤にこんな一文があります。
 【父はいろんな女性と関係がある人で、仁尾町の俺の知っているほぼすべての女性らしい女性と、関係があったという人もいたが、俺は十二人きょうだいの末っ子で、十二人にはいちおう戸籍があり、それぞれ、故人や義理を合わせ、八人の母親がいた。】
 
 通常この設定だと、一族のドロドロした人間模様がメロドラマチックに描かれたりするものですが、この小説の場合、最初から最後までそういう雰囲気はありません。なにしろ、その12人きょうだいの四女はいつも瓶の中に入っているし、きょうだいのうちの4人を引き取った箱屋の女主人は、腕に筋が盛り上がっていて、その筋が手首の方に動いたり、「ぴょこたん、ぴょこたん」と跳ねあがったりするのです。何じゃそれ? って感じですよね。
 
 ではひたすらに摩訶不思議一辺倒なのかというと、そうでもなく、その箱屋の女主人については、こんな描写もあります。
 【女主人は、世間的に、一見どうしようもないと思われる人間にも、さらに一層、どうしようもなくなる可能性がある、ということをわかっていた。】
 どうです、何か起こりそうでしょう? 実際、起こります。シュールであると同時に、人の世の性(さが)を見据えたような味わいがあるのです。『塩』だけでなく、他の4篇も同様。

 ただ私自身は、もう少し摩訶不思議度の低い小説が好みというか。最初はある程度現実的に始まって、途中から知らず知らずのうちに不思議な世界に導かれるような作品の方が、好きです。映画に例えると、キム・ギドク監督作品のような。
 まあ今回は故郷の四国が舞台なので、自分の知っている現実の四国と、小説の中のシュールな四国が絡み合って混乱し、やや読み辛かったのかもしれません。特に自分の生まれ育った某地域が出てくると、そこにまつわる個人的・現実的な事柄が意識の中にチラついて、ちょっと邪魔くさかったです。奇妙な面白さもありましたが。ちなみに著者のいしい氏は大阪出身だそうです。

 余談ですが、宇和島が舞台になっている部分を読んでいる時、やたらと「凸凹神社、出てきたらええのにな~」と期待してしまいました(結局出てこなかった)。私は宇和島に住んだことはないものの何度か訪れていて、そのたびに凸凹神社を見学しています。はい、おすすめスポットです。エロについて真面目に研究(?)している方限定ですが。
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サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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