『NEXT』

(成人館での公開タイトルは『超いんらん やればやるほどいい気持ち』)
2008年 日本 監督・出演:池島ゆたか 脚本:後藤大輔 出演:牧村耕次、日高ゆりあ、倖田李梨、千葉尚之、青山えりな、川瀬陽太、なかみつせいじ、ジミー土田、野村貴浩、大場一魅

 先週、イメージフォーラムのピンク特集にて鑑賞。池島ゆたか監督、101本目の作品。実は私、池島氏の出演作品は少しばかり観ているものの、監督作品はおそらくこれが初めて。 
 これまでの100本を観ていない人間が101本目についてアレコレ書くというのは、ある意味失礼なことなのかもしれません。しかし、だからといって書かないというのも何か違うような気がするし‥‥。やはり、書いておきます。この作品を観て、「いい映画だ」と思いつつも微かな違和感を持ったので、そのあたりのことを。

 作品のおもな内容は、老映画監督の死の床での回想。病室で今まさに息を引き取ろうとしている夕景(牧村耕次)の心に、人生の様々な場面が浮かんでは消えていきます。それらを年代順に並べてみると。
 
 さえない舞台俳優だった、若き日の夕景(千葉尚之)。本当は映画監督を夢見ていた。同じ劇団の女優、東雲(青山えりな)と愛し合うが、彼女は去る。やがて夕景はAV男優に。やはりさえない。撮影現場で共演女優の夜半(倖田李梨)たちから冷たい仕打ちを受ける。相変わらず持ち続けている映画監督への夢も、AV監督(池島ゆたか)に嘲笑されるのみ。
 時は流れ、ピンク映画の世界で生きるようになった夕景。「映画」と名乗る少女(日高ゆりあ)に出会って一瞬のうちに惹きつけられ、彼女を主演に、魅力的な監督デビュー作を撮る。しかし「映画」は事件に巻き込まれ、帰らぬ人に。傷心の夕景、夜半と再会。かつての仕打ちを謝罪する夜半。2人、仕事では監督と女優、プライベートでは恋人同士となる。その後、夜半が助監督(川瀬陽太)と浮気するなど色々あったにもかかわらず、2人の絆が壊れることはなかった。
 
 映画では、以上のようなエピソードが、あえて年代順ではなくバラバラに描かれ、その合間に現在の(瀕死の)夕景を捉えたシーンが挿入されています。また、老いた夕景が純白のドレスを着た「映画」に会い録音スタジオに導かれる‥などの幻想的なシークエンスも、要所要所に登場。夢と現(うつつ)を行き来しながらひとりの男の人生を紡ぎ映画への愛を歌う、そんな作品に仕上がっています。

 さてこの作品では、主人公の夕景が映画監督を夢見るようになった具体的なキッカケや理由は、描かれていません。彼が東雲や、出会った時の夜半に対して「僕のアンナ・カリーナになってくれ!」と叫ぶことから、ゴダールに憧れていたというのは分かるのですが。
 また当時の夕景は「監督になりたい」と言いつつも、例えば自主映画を撮るなどの実践的な行動には出ていません。つまり若い頃の彼は、本気で映画監督を目指すというよりも、映画監督という立場に抽象的な憧れを抱いていただけなのでしょう。
 しかしピンク映画の世界で働くようになってからの夕景は、違います。「映画」と名乗る少女に出会い強く惹きつけられても、彼女に対してアンナ・カリーナ云々とは言いません。この時の彼は、もう抽象的な憧れなど抱いておらず、本気で「自分の映画」を撮ろうとしていたのでしょう。そして、撮った。撮り続けた。年老いるまで。
 
 だから、この映画『NEXT』の最初と最後にそれぞれサミュエル・フラーとエリック・ロメールの言葉が引用されていることに、私は違和感を持ちました。「海外の著名監督に漠然と憧れていた青年が、自分自身の映画人生を獲得していく姿」を描いた作品で、なにも海外の著名監督の言葉を引用しなくても‥‥と思うわけです。この映画の最初と最後を飾るべき言葉があるとすれば、それは、池島監督自身の言葉なのではないでしょうか。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク