『ならず者』

1964年 日本 監督・脚本:石井輝男 出演:高倉健、丹波哲郎、杉浦直樹、安部徹、三原葉子、南田洋子、高見理紗、赤木春恵、加賀まりこ

 数日前に、新文芸坐の特集「孤高のスタア 高倉健」にて鑑賞。健さん演じる殺し屋・南条が、香港から横浜そしてマカオへと、自分をハメた依頼主の毛(安部徹)を追い続けるが‥‥というストーリー。
 2本立てのもう1本『東京ギャング対香港ギャング』がわりと珍妙な映画だったので、それに比べて「普通に面白いアクションもの」という印象を受けたのですが、やはり石井輝男監督だけあって、ときどき過剰だったり過激だったりする描写があり、独特の味わいを生み出していました。
 
 例えば南条が、宿の年老いた女主人(赤木春恵)に暴力をふるって殺してしまうシーン。この女主人は、自分の娘(高見理紗)を見殺しにして殺した犯人から大金をせしめるような酷い人物なので、南条が彼女に対して怒りを感じるのはもっともだと思いますが、それにしても沈着冷静なプロの殺し屋である彼が、怒り狂って老婆をガンガン痛めつけるさまは、やや異様というか過剰な気もします。
 ただ南条というキャラクターは、人を騙すなどの卑怯な行為を嫌っているという設定なので、そういう彼の真っすぐな部分を強く表現したシーンとして観ることもできます。
 
 また、南条と関わりのある組織のボス・蒋(丹波哲郎)が、自分を裏切った部下の明蘭(三原葉子)を撃ち殺すシーン。こちらで注目すべきは暴力描写ではなく、撃ち殺す前に蒋がピストルでピアノの鍵盤を叩いて、ショパンの『葬送行進曲』を奏でるところ。
 や、正確に言うと『葬送行進曲』の、例の有名な最初のフレーズだけを延々と奏でるのですよ。この描写、面白いしカッコいいんですけど‥‥ちょっとクドい。短いフレーズを何度も何度も何度も繰り返すので‥‥。でもまあ、タンバ先生のむやみに大物感あふれる佇まいと相まって、普通の迫力とはちょっと違う、「強引かつ粘っこい迫力」とでもいうものが漂っていたのは確かです。

 そしてもうひとつ、こちらは殺す・殺されるではなく人を救うシーン。南条が肺病持ちの娼婦(南田洋子)のアパートで、彼女のノドに詰まった血を自分の口で吸いだしてやる描写。なんつうか、激しいです。そして少々グロテスク。大量の血を口移しならぬ口受け(?)で、ヂュルルルルッと吸って、ビャーッと吐き捨てるわけですから。しかしこれも、南条の真っすぐさ、ひたむきさの表現として観ることも可能でしょう。
 
 それにしても、このとき居合わせた刑事(杉浦直樹)が、南条に口ゆすぎ用の水を手渡す際、コップではなく片手鍋に水を入れて持ってきたのは、ちょっと可愛かった。コップでは少ししか水が入らないから、持ちやすくてしかも水がたくさん入る片手鍋で‥という気遣いか。あるいは、慌てていて「とにかく早く水を!」と、たまたま目に入った片手鍋を夢中でつかんだ、とか。
 いずれにせよ、このあと南条と刑事が立場の違いを超えて奇妙な友情をはぐくむのも、何となく納得できます。片手鍋、監督の意図的な演出なのかなあ?
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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