『あんにょん由美香』

2009年 日本 演出・構成:松江哲明 出演:林由美香、カンパニー松尾、平野勝之、いまおかしんじ、華沢レモン、入江浩治、横須賀正一、柳田友貴、キム・ウォンボク、ユ・ジンソン、柳下毅一郎、中野貴雄、野平俊水
各地で上映中または上映予定あり(東京など既に終了した地域もあり)  
公式サイト→http://www.spopro.net/annyong_yumika/

 数日前に、ポレポレ東中野にて鑑賞。早世した女優・林由美香についてのドキュメンタリー映画。結論を先に書くと、この映画、今回とは別のアプローチで続編を作ってほしいです。

 林由美香(1970~2005)は、AVやピンク映画で活躍した女優。私が初めて彼女の出演映画を観たのは15年ほど前で、以来、コミカルなものからシリアスなものまで、さまざまな役柄を的確にそして生き生きと演じる彼女の姿を、観てきました。
 といっても私は、彼女の膨大な出演作品の一部しか観ていません。また、ご本人にお会いしたこともありません。しかしこの文章では、彼女のことを馴れ馴れしくも「由美香さん」と呼ばせていただきます。自分と年齢(生年)がわりと近かったり、誕生日がものすごく近かったりで、彼女に対して淡い親近感のようなものを抱いているせいか、何となくその呼び方がしっくりくるので。
 
 さて、ここからが本題。この映画を作った松江哲明(1977~)は、かつて由美香さんから「松江君、まだまだね」と言われたことがあるそうで、映画の冒頭では、そのエピソードが紹介されます。彼が学生のとき、すでにプロの女優として活躍していた彼女に自分の映像作品を見せたところ、返ってきた言葉が「松江君、まだまだね」。
 
 これ、言われた方はもちろん辛かったと思いますが、言った方もかなり辛かったはず。おそらく由美香さんは、その松江氏の作品に才能や魅力を感じたのでしょう。だからこそ、未熟な部分や足りない部分について、あえて心を鬼にして酷評した。しかも具体的に酷評するのではなく、「まだまだ」という非常に抽象的な言い方をした。これはつまり、「どこがダメなのかは自分で考えなさい(そうすればあなたはもっと伸びる)」ということ。

 そう、松江氏は、由美香さんから宿題を出されたわけで。彼はその後の人生において、色々な経験や創作活動を重ねつつ、折に触れて彼女の言葉を思い出し、考え続けなければならなかったはず。
 そして今、彼女を題材に映画を作るのなら、現時点での自分なりの答えを表明するべきなのです。その作品のどこがダメだったのか、それをどう克服してきたのか、あるいはまだ克服できていないのか。
 
 しかし『あんにょん由美香』では、そういった答えが表明されていません。
 映画全体の内容は、彼女が出演した珍妙な韓国製エロ映画の謎を探りつつ、彼女と深い関係にあった日本の監督たちを取材し、これら2つの流れを意外な形でリンクさせる‥‥というもの。松江氏のルーツが韓国ということもあり、色々な受け止め方のできる味わい深い展開ではあるのですが、結局、冒頭の「まだまだね」の件は放置されたままなので、観終わって物足りない印象が残りました。
 
 そこで最初に書いたように、続編を希望します。松江氏には、いつか『続・あんにょん由美香』を作っていただきたい。そしてそこで、自分なりの答えを表明していただきたい。
 もちろんその際には、由美香さんに酷評された学生時代の作品を、我々に見せてください。恥ずかしいかもしれませんが、今回あなたは、一部の関係者が恥ずかしがっている韓国製エロ映画を(ある意味)大々的に公開したのだから、ご自分の恥ずかしい作品も公開するべきですよー。
 
 と言いたいところなのですが、映画サイト「INTRO」のインタビュー記事によると、松江氏はその作品を消してしまって、もう持っていないのだとか。彼いわく、「由美香さんに“まだまだね”と言われたこともあって、もう二度と観たくない」。あの、それ、ちょっと違うんじゃないでしょうか。「まだまだね」と言われたからこそ、大事に持っておくべきだったのでは?
 まあ、私がそんなことを言っても仕方ないですよね‥‥。とにかく実物が無いなら無いなりに、何とかして由美香さんからの宿題に決着を付け、その過程を映画にしていただきたい。そうすれば、松江氏自身のことだけでなく由美香さんのことも、より深く描けるはずです。

≪追記(10月3日)≫
 最後の部分、やや分かりにくいかもしれないので補足しておきます。つまり、由美香さんが「まだまだね」と評した作品について考えていけば、彼女の色んな面が見えてくるんじゃないかと。例えば、彼女が創作という行為をどう捉えていたか、とか。映像表現というものについてどんな考えを持っていたか、とか。
 せっかく彼女が言葉を残してくれたのだから、そのあたりをもっと掘り下げていただきたい。私としては、そんな意味も込めて、この「批判混じりの提案記事」を書きました。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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