“そんな人並みな時もあった”

 本当はもっと早く書くつもりだったのに、遅くなってしまいました。今頃になって書きます。先月亡くなった加藤和彦を追悼する意味で、彼の作品について。

 私は加藤氏のファンというわけではないのですが、彼の何枚かのソロ・アルバム、なかでも『あの頃、マリー・ローランサン』(1983)にはけっこう愛着があります。このアルバムが発表された時、レコードを買いはしなかったものの、FMで全曲をテープに録音し、しばらくのあいだ繰り返し聴いていたので。
 さらに、そうやって10代の一時期に聴き込んだせいか、成人後も普段の生活の中で、たまにこのアルバムの曲が頭の中で鳴ることがあり、90年代に入ってCD化された際には、買って改めて聴きました。そして最近では、やはり加藤氏死去のニュースが流れた日に、久しぶりに引っ張り出して聴いたわけです。

 とにかく作曲・歌の加藤氏はじめ、作詞の安井かずみ、編曲の清水信之・坂本龍一、演奏の高中正義・高橋幸宏・矢野顕子など、豪華メンバーが丁寧に作り上げた、精緻な工芸品のようなアルバム。(参考までに‥‥ここで全ての曲をほんのちょっとずつ試聴できますよ→http://www.sonymusicshop.jp/detail.asp?goods=SRCL000001843#
 私は基本的に映画でも音楽でも、こういう端正で洒落た感じの作品はやや苦手なのですが、そんな私でも、惹かれるものがあります。

 で、今回の記事タイトル“そんな人並みな時もあった”は、このアルバムに収録されている『優しい夜の過し方』という曲の、歌詞の一節です。この歌詞は、恋人に去られた男性がアパートで独りの夜を過ごす様子を綴ったもの。そして“人並みな時”とは、恋人と一緒に過ごしていた時期のことかもしれないし、あるいは、全てにおいてあまり冴えない人生を送っているらしい彼にとって珍しく華やかだった時期、なのかもしれません。
 ちなみに、このアルバムを発表した頃の加藤和彦と安井かずみは、ともに人並みより遥か上の成功を手にした華やかな夫婦であり、彼らの優雅な生活ぶりは、一般人の羨望の対象としてマスコミに取り上げられたりしていました。
 そんな彼らが「あまり冴えない人」の曲を作ってイヤミにならない、それどころか非常にいい曲になっている、これはなかなか面白いことやなあ‥‥と、当時の私は思いました。その後、安井氏が若くして病気で亡くなり、さらに時を経て加藤氏が自ら命を絶ち、今では別の感慨も持つようになったのですが、それでも敢えて、「面白い」とだけ記しておきます。

 ところで最近、アニメ『超時空要塞マクロス』がパチンコになり、そのCMで、昔の劇場版(1984)の主題歌『愛・おぼえていますか』が流れていました。あの、飯島真理が高~い声で歌っていた曲(http://www.youtube.com/watch?v=Un6FAI098II)。耳にした瞬間、懐かしさとともに「ああ、これも加藤・安井コンビの曲だったよな」と思い、編曲者が誰だったかは憶えてないので調べてみたところ、清水信之でした。なるほど。
 そして今回初めて知ったのですが、この曲、色んな人がカバーして、ず~っと歌い継がれているんですね。編曲も多彩。いろいろ聴いてみて、個人的には、菅野よう子が編曲したこのバージョンが気に入りました→http://www.youtube.com/watch?v=HI1rYI1Cf5Y
 実は、25年前に元のバージョンを聴いたとき、詞もメロディも編曲も、ちょっとシンプルすぎるように感じました。しかし適度にシンプルだからこそ、時代が変わっても、こうして他の人が独自の解釈で再構成できるのでしょうね。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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