『罪 tsumi』

(成人映画館での公開タイトルは『獣の交わり 天使とやる』)
2009年 日本 監督:いまおかしんじ 脚本:港岳彦 出演:尾関伸嗣、吉沢美憂、伊藤清美、山崎康之、吉岡睦雄、古澤裕介、小鳥遊恋、及川ゆみり、守屋文雄、松原正隆、川瀬陽太、ローランド・ドメー二グ 
DVDレンタルあり(セル版は3月5日発売予定)

 5日ほど前にDVDで鑑賞。第4回ピンク映画シナリオ募集入選作『イサク』の映画化作品。成人館で公開された際のタイトルは『獣の交わり 天使とやる』で、DVD化にあたり『罪 tsumi』と改題されました。(なお、この『罪 tsumi』は「R15」となっているので、『獣の~』よりも性的なシーンが少し短いバージョンなのかもしれませんが、私は『獣の~』を観ていないので比較はできません。あしからず。)

 『イサク』を書いた港岳彦氏は、脚本のほかに映画評なども手がけている方。私は数年前に港氏の文章をどこかで目にして以来、彼のブログを読んでいます。で、読み続けていくうちに分かったのですが、どうやら彼は、クリスチャンではないのにキリスト教を自らの重要なテーマとして捉え、勉強してらっしゃるようなのです。
 私は信仰心の無い人間なので、バリバリのクリスチャンがキリスト教をテーマにして作った映画や小説には距離を感じてしまうのですが、作者がクリスチャンではないとなると、話は別。逆に興味を感じます。これは多分、「キリスト教に対して否定的だが、とある経験から否定しきれないでいる」という、私自身の中途半端なスタンスが影響しているのでしょう。
 そんなわけで、港氏がキリスト教をテーマにして書いた『イサク』を、いまおかしんじ監督(キリスト教とはほぼ無縁で、この脚本のテーマよりも設定に惹かれたらしい)が演出した『獣の交わり 天使とやる』、ぜひ観たいと思いながら劇場では観られず、今回DVDで初対面。

 観ていちばん感じたのは、少し抽象的すぎるのではないか、ということ。
 たしかにこの映画、難解になりがちなテーマをドラマティックな設定で分かりやすく描いているし、いまおか監督の持ち味である、深刻さの中に絶妙なマヌケさを混入させる演出も効いています。しかし全体としてやや抽象的で、私のような信仰心の無い観客には、今ひとつ響いてこないというか。
 原因は、晴彦という登場人物の描き方にあるような気がします。

 伊作(尾関伸嗣)は、売られたケンカで晴彦(山崎康之)を殴って植物状態にしてしまい、故郷を離れていたが、5年ぶりに帰郷。「会いなさい、会って癒しなさい」というキリストらしき者の不思議な声に導かれたのだ。伊作は晴彦に会おうとして、彼の母・佳子(伊藤清美)からも姉・果穂(吉沢美憂)からも拒絶される。ただ、クリスチャンである果穂は、実は伊作の言動を気にしていた。
 そんなある日、晴彦の兄貴分で果穂に思いを寄せるチンピラヤクザの秀樹(吉岡睦雄)が、伊作を刺す。その事件をきっかけに、伊作と果穂は親しく言葉を交わすようになるのだが‥‥。

 このあらすじだけでもお分かりの通り、晴彦は、すべての発端。ベッドで眠っているシーンがほとんどなので、絵的には目立たないものの、実はさまざまな出来事や人間関係の軸になる人物なのです。ところが、彼が具体的にどんな人物なのか、ほとんど描かれていない。
 映画の中で描かれたり語られたりしているのは、植物状態になった時点で17歳だったことと、子供の頃は母が多忙で姉の果穂に面倒を見てもらっていたこと。また、いわゆる不良少年だったらしいこと。
 これだけでは、晴彦の人柄や人間性は見えてきません。つまり彼の存在自体が、記号的・抽象的なのです。だから、果穂や佳子など他の登場人物の晴彦に対する感情も、伊作の罪も贖罪も、伊作がクライマックスで語る「赦し」も、すべてが抽象的。つかみどころが無い、というか。

 やはり、植物状態になる前の晴彦がどんな少年だったのかを、ほんの少しでいいから具体的に描いてほしかった。例えば佳子と果穂が、晴彦の口癖やよく着ていた服についてチラッと語るとか。あるいは晴彦が眠り続けている部屋に、彼が旅行で訪れて気に入っていた観光地の写真が貼ってあるとか。
 些細なことでいいのです。それがあれば、映画全体の具体性が増したんじゃないでしょうか。

※以下の文章では、作品の結末に触れています。

 そしてこの映画のラストは、抽象的云々ということだけでなく、さらにいくつかの理由によって、信仰心の無い観客には、やや付いていきづらいものになっています。まず、メインの登場人物のうち3人もが、信仰の世界に行くということ。伊作は神の声に導かれた末に、自らが神のような存在になったし、果穂は一度捨てた信仰を取り戻したし、佳子は信仰に目覚めたようだし。それと、信仰に対してハッキリと否定的・懐疑的な人物は、最後まで1人も出てこないんですよね。
 結果的にこの映画、キリスト教を全面的に肯定しているように見えなくもない(作り手の方たちにその意図があったかどうかは別として)。だから、キリスト教に対して少しでも疑問や否定的感情を持っている観客は、やや困惑するのではないでしょうか。少なくとも私は、そうでした。

 最後に。批判的なことをダラダラと書き連ねましたが、これは観た後で色んなことを語りたくなる映画です。台詞も映像も、妙に頭の中に残るし。そういう意味で、面白い作品だと思います。
 DVDのパッケージは、女性でも手に取りやすいキレイ系のデザインになっているので、男女問わず、興味のある方はご覧になってみてください。あ、もちろん劇場で観る機会があれば、その方がいいでしょう。春には、ピンク関係のイベントや特集上映が一般館であるようだし、その際に上映されるかもしれません。

※追記‥‥上映が決まりました。詳しくは、こちらをどうぞ
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク