『息もできない』

2008年 韓国 監督・脚本・出演:ヤン・イクチュン 出演:キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス、パク・チョンスン
シネマライズ(東京)にて上映中、他の地域でも上映予定多数あり  
公式サイト→http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/index.html
 

2週間ほど前、シネマライズにて鑑賞。もともとは俳優であるヤン・イクチュンが、製作・監督・脚本・編集・主演の5役をこなして創りあげた長編監督デビュー作。
彼自身の辛い経験(生い立ち)をもとにした内容でありながら、自己愛や自己憐憫が前面に出ることもなく、深刻な中にユーモラスな要素も入った秀逸な映画なのですが、私にとっては、どうも今ひとつグッときませんでした。その原因は、メインの登場人物2人の造形にあるような気が。

取り立て屋のサンフンと、女子高生のヨ二。2人とも、暗く荒れた家庭で育った。
サンフンの父は、母に暴力をふるい続け、それがもとで母と妹は死亡。ヨ二の父はベトナム戦争の帰還兵で、精神的な後遺症があり、被害妄想による暴言が絶えない(「ヨ二が自分を殺そうとしている」など)。母はすでに死去。暴力的な弟がいる。

似た環境で生きてきたせいか、恋愛とは少し違う特殊な絆で結ばれていく、サンフンとヨ二。しかし彼らの人物像は、非常に対照的です。
サンフンは、暴力を見せられ続けたために自身もきわめて暴力的になってしまったという、「負の連鎖」の体現者。優しい面もあるものの、基本的に債務者や年下の同僚、そしてムカつく相手に対しては、すぐ殴る・蹴る・怒鳴る。
逆にヨ二は、「負の連鎖」を断ち切ろうとするかのように、常に気丈で理性的。自分の悩みや苦しみを一切他人に語らず、非行に走ることもなく、学校に通いながら父と弟の世話を続ける。

あえて単純な言い方をすると、サンフンは愚かすぎて、ヨ二は立派すぎるのです。両極端、というか。現実社会において、機能不全の家庭で育った人々は、サンフンでもなくヨ二でもなく、その間、あるいは2人を混ぜたような性格(人物像)である場合が多いんじゃないでしょうか。
もちろんフィクションでは、現実社会をそのまま反映させる必要は無いし、むしろ作り手としては、フィクションだからこそ、極端な人物造形で強烈な印象を狙ったのでしょう。しかし観客の感情移入という点では、どうなのかな、と。
 

私自身、この映画のいくつかの場面が過去の辛い記憶と重なり、観ていてウッとなったものの、作品自体には今ひとつ入り込むことができませんでした。もしサンフンとヨ二が(どちらか一方でも)、愚かでもなく立派でもない、そんな曖昧な人物として描かれていれば、すっと入り込めたかもしれません。
プロフィール

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。

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