『アウトレイジ』

2010年 日本 監督・脚本:北野武 出演:ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、小日向文世、中野英雄、塚本高史、杉本哲太、國村隼、石橋蓮司、三浦友和、北村聡一朗
(全国各地で上映中)

 数日前に、新宿ミラノ座にて鑑賞。
 昔は北野映画がわりと好きで、新作が公開されるたびに行っていたのですが、だんだん違和感を持つようになり、『HANA-BI』まで観た時点で、その違和感がかなり膨らみまして。理由は色々あるのですが、そのひとつは、北野監督の描く絵。あの絵も、それが映画の中でバーンと大写しになるのも、ちょっと苦手なんですよ。なんというか、過剰な叙情アピールみたいなものを感じてしまって。まあ、こっちが勝手に感じてるだけなんでしょうけど。
 結局その後は、『座頭市』と今回の『アウトレイジ』しか観ていません。この2本は題材的に面白そうだったし、鈴木慶一が音楽を担当していることもあって、興味を持ったのです。で、『座頭市』はまあまあという感じだったのですが、『アウトレイジ』はかなり面白かったです。絵も出てこなかったし。

 さてこの映画、ジャンルとしてはいわゆるヤクザ映画。内容的には、ヤクザ同士の駆け引きと裏切りと暴力が満載。となると、やはり東映のその種の作品群や、各社のヤクザものOVなどを連想するわけですが。
 しかし『アウトレイジ』は、そういう従来のヤクザものとは少し感触が違います。理由は多分、ヤクザたちの背景が分からないようになっているから。
 例えば、彼らの情婦らしき女性はチラッと登場しても、妻子や親兄弟といった家族は全く出てこない。また、彼らの生い立ちやヤクザになった理由なども、全く描かれない。
 さらに「エロさが希薄」というのも、従来のヤクザものと違う点。ベッドシーンは1回だけあるものの、静かな儀式みたいに描かれていて、エロとか性欲とかそういう感じではないし。台詞の面でも、「バカヤロウ!」「コノヤロウ!」と荒っぽい言葉が頻出するわりには、下品なエロ言葉は出てこないし。

 つまり『アウトレイジ』のヤクザ描写では、家族や過去や性など、いわゆる人間的というか、人間味の部分が除外されているんですね。だからこの映画のヤクザたちは、人間というよりも、「社会を構成する要素」に見える。そしてその社会は、駆け引きと裏切りと暴力に満ちている。これ、ヤクザ社会だけでなく一般の社会をも表現しているのでしょう。
 極端な言い方をすると、この映画は、人間模様ではなく「社会の構造」を描いているわけです。だから、いわゆる人間ドラマを期待して観るとガッカリするはずで、そういうのとは別物だと割り切って観た方が楽しめる。
 しっかり人間を描くタイプのヤクザ映画もいいけれど、こういう、社会や世間の構造それ自体を浮かび上がらせるようなヤクザ映画も、それなりの面白さがある‥‥ということです。そうそう、鈴木慶一があえてドイツ製のシンセ1台だけで作ったという硬質で抽象的な劇伴は、まるで作品の性質を象徴しているようでした。

 ところで今回、椎名桔平が暴力的なヤクザを演じているわけですが。個人的には、椎名氏といえばやはり『ヌードの夜』。あの映画で初めて彼を観た時、「すごい役者さんが出てきたな~」と思ったものです。かなり凶暴な役で、とにかく異様な迫力があり、画面に出てくるだけで不気味。でも時折、無邪気な表情も見せたりして。
 今回はその時ほど極端ではないものの、やはり凶暴さの中に無邪気さが混じっているような役。彼はやはりこういう役が上手い。というか、似合う。
 彼は『ヌードの夜』のあと有名になるにつれて、ちょっと顔つきや体型が変わってしまった(と私は思う)のですが、今回観た限りでは、昔の鋭さが戻ってきた感じです。そのうちまた石井隆監督の映画で、濃厚な役を演じてほしいなあ。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク