『うたかたの日々』

(成人館での公開タイトルは『壷姫ソープ ぬる肌で裏責め』)
2009年 監督:加藤義一 脚本:城定秀夫 出演:津田篤、持田茜、藍山みなみ、THUNDER杉山、岡田智宏、合沢萌、サーモン鮭山

 3か月ほど前にポレポレ東中野で観て、記事を書き始めたものの、急に忙しくなり挫折。そして時間に余裕ができた頃には、作品の記憶が薄れていて、また挫折。もうこのまま書けないかと思っていたのですが、10日ほど前に目黒シネマで再び観ることができました。
 この作品、大まかなストーリーはシンプルかつオーソドックスなので、単なる「他愛のない映画」と感じる方もいるかもしれません。しかし私にとっては、なんというか、「幅のある映画」。おそらく作り手の方たちの意図とはまた別のところで、自分なりにいろいろ解釈して味わうことができました。 
 以前記事にした、同じく加藤・城定コンビによる『ヒロ子とヒロシ』の場合は、細部の作りが雑な気がして、あまり作品に入り込めなかったのですが、この『うたかた~』は細部が興味深く、そこから色んな解釈が広がったというわけです。

※以下の文章では、ストーリーの結末に触れています。

 柳 潤二(津田篤)は、売れないエロ漫画家。ある日、せっかく手にした原稿料を1日で使い切ってしまい、同棲相手の麻理子(藍山みなみ)に追い出され、偶然再会した高校の同級生・知美(持田茜)の部屋に転がり込む。知美は、潤二の初体験の相手だった。
 今はソープ嬢をしている知美と、彼女のヒモ的存在となった潤二。ふたりは惹かれあい楽しい時を過ごすが、そんなふたりの前に突然、高校時代の教師・内山(THUNDER杉山)が現れる。実は知美は在学中から、既婚者である内山と交際して妊娠・中絶し、その後彼のもとを去ったのだった。そして内山は知美のことを諦めきれず、妻と離婚して知美に会いに来たのだ。
 結局、知美は内山のところへ戻ることになり、潤二は麻理子のところへ戻っていく。

 さてタイトルの『うたかたの日々』とは、どの日々を指しているのでしょうか。普通に考えれば、「潤二と知美が過ごした日々」ですよね。
 高校時代の思い出も、「ソープ嬢とヒモ」の生活も、はかない夢のようなもの。潤二にとって、麻理子との日々こそが確かな現実。2人の女性の人物像も、知美は華奢でミステリアス、麻理子は肉感的でシッカリ者‥‥と、それぞれが「夢」と「現実」にふさわしい。
 ところが、ですね。私には、潤二と麻理子の日々も、「うたかたの日々」に見えるのですよ。

 その原因は、潤二と麻理子が住んでいる部屋のシーンの撮り方、にあるような。
まず、常にだいたい同じ方向から撮影されている。かなり広い部屋なので、色んな風に撮れそうなのに、なぜか「手前に潤二の低い机、奥にベッド」というパターンが多い。映画の冒頭からラストまで、この部屋のシーンは何回も出てきて、その都度状況は違っているのに、いつも似たような構図で映っていて。だから他のシーンに比べると、やや舞台劇っぽいというか不自然というか。
 しかも、この部屋の外側を描写したカット(玄関ドアの外側や建物の外観などのカット)が出てこないので、部屋の実在感が薄い。なんかこう、抽象的な空間に見えるのです。
 
 もちろんそれらは、撮影や編集の都合上たまたまそうなっただけ、なのかもしれません。また仮に監督の演出だったとしても、私が思うのとは別の意図に基づいている可能性も充分あります。しかしまあ、それはそれ。映画というのは結局、観た側が勝手にいろいろ感じてしまうものですから。
 とにかく私には、潤二と麻理子の生活空間が、やや虚構っぽいものに見えるのです。だからラストシーンで、潤二が麻理子と暮らす部屋へ帰ってきても、日常や現実に着地したとは、あまり感じられない。彼は「うたかたの日々」と決別して帰ってきたけれど、これから始まる生活も、また別の「うたかた」なんじゃないか。そんな印象を受けます。

 その印象も含め、色んな意味で、この映画は物悲しい。
 例えば知美のほうも結局、内山のところへ戻ることになるわけですが、これ、「やっぱり彼が好き」とかそういうことではなく。いや、まあ、それもあるんでしょうが、この内山という男、かなり自分勝手で子供っぽい男として描かれているため、知美は何だか保護者のよう。彼があまりにも自分を必要としているので、自分よりはるかに年上である彼の保護者として生きていく‥‥そんな悲壮感のようなものも感じられます。
 もちろんこの辺も、人によって色んな解釈があるはず。全体的に、観た人がそれぞれ思いを巡らすことのできる映画。

 ところで、4月にチラッとこの映画に言及したとき、「主演の津田篤さんがよかった」と書いたわけですが、具体的にどういうことかというと。
 この潤二という役は、基本的にだらしなくてボーッとしているのに、実に物分かりがいい時もあるという、アホなのか賢いのか分からないような役。それを矛盾ではなく魅力として、津田氏がさりげなく演じていたので好感を持ったというわけです。
 
 さらに、持田茜についても書いておきましょう。彼女、演技以前にまず顔立ちがイイ。この役にぴったり。ああいう、目がやや離れ気味の顔というのは、幼さとエロさが同居していて、妙に人を(特に男性を)惹きつけるものがある。昔から、アイドル歌手などにもこの手の顔はけっこう多いです。
 もちろん、顔だけじゃなく演技もよかったですよ。例えば彼女の演じた知美は、潤二のことを場合によって、「柳くん」と呼んだり「あんた」と呼んだりするのですが。この、いかにも同級生っぽい呼び方と情婦のような呼び方の両方がサラッとできる小悪魔ちっく(?)な雰囲気、彼女は的確に体現していました。
 
 余談ですが、持田茜は現在「しじみ」という芸名で活動してまして。私はこの芸名を初めて知った頃、どうしても、『わたしはしじみ!』(昔のギャグマンガ・主人公がブサイク)を連想してしまい、ちょっと困ったんですが、最近はもうあまり連想しなくなりました。あ~、よかった。
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サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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