『わいせつ性楽園 ~おじさまと私~』

(上記のタイトルは成人館での公開題。原題は不明。)
2009年 日本 監督:友松直之 脚本:大河原ちさと 出演:野上正義、水無月レイラ、山口真里、里見瑤子、金子弘幸、友松直之

 2週間ほど前に上野オークラ劇場で行われた、「野上正義さん追悼上映会」にて鑑賞。
 とても爽やかな映画だと思います。なんかこう、いい具合に乾いた風がフワッと吹き抜けていったような、そんな印象の作品。ピンク映画なので、もちろん濡れ場は何度もあるし、内容的にも老い・孤独・暴力・病、そして死が描かれるのですが、それでも爽やかな余韻が残っています。
 なぜなのか。しばらく考えてみて、思いついた理由。主人公ふたりの、性格というか「生きる態度」が潔いから。

 上野(野上正義)は、妻に先立たれた老人。由紀(里見瑤子)と明美(山口真里)という2人の娘がいて、明美とは同居している。しかし明美は多忙で、由紀もあまり訪ねてこないため、彼は独りで過ごすことが多い。
 マリカ(水無月レイラ)は、恋人と別れようとしている若い女。思春期に義父(友松直之)にレイプされ、やがて家出をし、さまざまな風俗店で働いてきた。恋人のケンジ(金子弘幸)とは、最初はうまくいっていたが、彼が暴力をふるうようになり、逃げ出した。また彼女には、パニック発作の持病があり、いつも薬を持ち歩いている。
 そんな上野とマリカがある日、出会う。そして急速に親しくなっていくのだが‥‥。
 
 上野もマリカも、世間的には「不幸」とか「かわいそう」とか言われがちな境遇に生きています。しかしどうやら彼らは、自分のことをそんな風には思っていない。
 や、少しくらいは思っているかもしれませんが、実際の言動には、自己憐憫的なものが全く無いんですよ。彼らは、軽い愚痴くらいは言うものの、恨みごとは一切言わないし。メソメソしないし。自分の境遇について語る時も、淡々と語るし。
 なんというか、「自分に起きたことを、辛がらずに全て引き受けて生きる」、そんな潔さを感じます。

 この印象は、演じる役者さんの持ち味とも、深く関係しているような気がします。
 まず野上氏。彼はベテランの名優で、もちろん存在や演技に重みはあるものの、重すぎないんですよね。深刻になり過ぎない、というか。つねに飄々としているし。

 そして水無月レイラ。友松監督のブログによると、素の彼女は野上氏を気遣う優しい子だったそうですが、女優としてはダメダメで、「演技以前に台詞が全く覚えられない」状態だったとか。つまりこの映画の彼女は、演技をしているわけではなく、ほぼ素の状態で、監督やスタッフから言われたとおりに動いたり喋ったりしているだけ、なのでしょう。
 しかし逆に、それが良かったのかもしれません。というのも、例えばある程度芝居ができる女優や、あるいは熱演型の女優が演じていたら、このマリカというヒロインは、もう少し湿っぽくて感傷的な人物になっていたと思うんですよ。
 演技のできない、「感情を込める」などということのできない水無月レイラが扮したことによって、マリカは、“「不幸」と言われがちな境遇でも淡々とサッパリと生きる娘”になったんじゃないかと。また、素の水無月さんの優しさがそれとなく伝わってくるので、淡々としていても冷たい感じにはなってないし、結果的には良かったんじゃないでしょうか。

 ところでこの映画、終盤はちょっと意外な展開になります。そしてラストシーン。上野は、まさに「自分に起きたことを、辛がらずに全て引き受け」ます。深い悲しみはあっても、自分なりに納得して引き受ける。そのシーンでの、上野=野上氏の笑顔は、特に心に残っています。

 最後に。
 先ほどチラッと触れたように、友松監督がご自身のブログに、この映画の裏話や野上氏の思い出をお書きになっています。やや長めの文章ですが、「長くてもかまわない!」という方は、ぜひお読みください。とてもいい文章なので。
http://ameblo.jp/n-tomomatu/entry-10751192697.html
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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