『ばかもの』

2010年 日本 監督:金子修介 脚本:高橋美幸 出演:成宮寛貴、内田有紀、白石美帆、浅田美代子、小林隆、浅見れいな、池内博之、中村ゆり、古手川祐子、岡本奈月
※6月3日にDVD発売(レンタル同時リリース)
公式サイト→http://www.bakamono.jp/

 10日ほど前、三軒茶屋中央劇場にて鑑賞。
 金子修介監督には色々な特徴があるものの、私にとっては、「アイドル的な女優を可愛く(時にはエロく)撮る」というイメージが強いです。だから今回は、その延長線上という感じで、元アイドルの内田有紀と美形の成宮くんをとにかく綺麗に撮っているんだろうな~と思いつつ観はじめたわけですが、ありゃ、なんだか違う。
 必要以上に綺麗に撮ってはいない。

 実家に住み、地元の大学に通うヒデ(成宮寛貴)。バイトはするものの勉強はしない。優しい両親(小林隆・浅田美代子)や姉(浅見れいな)に見守られての、気ままな暮らし。
 ある日ヒデは、年上の女・額子(内田有紀)と出会う。彼女の虜になり、のめり込み、結局ふられる。酷いふられ方。
 やがて就職したヒデは、またしても年上の女・翔子(白石美帆)と付き合う。いつも優しく世話を焼いてくれる翔子。しかしヒデは異様に酒を飲むようになり、荒れていく。友人・加藤(池内博之)の警告も無視し、飲み続ける日々。人前で酔って暴れ、仕事も欠勤続き。職も友人も恋人も、失う。
 ついに、飲酒運転で事故を起こしてしまったヒデ。アルコール依存症の専門病院に入院する。そして退院し、新たな生活を始めた頃、額子の母(古手川祐子)と再会。額子の現在の様子を聞き、彼女の住む町へと向かう。約10年ぶりに会った額子は、変わり果てた姿で‥‥。

 端的に言うと、この映画、アルコール依存症をかなり丁寧に描いています。悪化する過程、良くなる過程、せっかく良くなってきたのにまた飲もうとする過程。それらを、深刻になり過ぎず、しかし重いものとして、きちんと細かく描いている。
 ただひとつ気になったのは、禁断症状に苦しむシーンなどで、ホラー映画風の劇伴が使われていること。ちょっと違和感がありました。といってもそれは些細な問題で、全体的には演出も演技も充実しており、引き込まれました。

 つまり今回、成宮くんの美貌よりも芝居を堪能できたわけで。内田有紀についても同様。例えば、ヒデと額子が10年ぶりに会うシーンでは、待ち合わせ場所で2人が互いを見つけるという、ただそれだけの描写でさえ、彼らの表情や佇まいから、さまざまな思いが滲み出ていて、胸を打たれました。
 成宮くんも内田有紀も整った容姿の持ち主なので、どんなシーンでも、ある程度は綺麗だったりカッコよかったりするわけですが、その綺麗さやカッコよさよりも、彼らが醸し出すものに目が行くんですよね。金子監督であれば、美しい人をより美しく見せることもできるだろうに、今回はそれをせず、あえて芝居を前面に出している気がしました。

 ところで、この作品の原作は絲山秋子の同名小説。両者を比べると、映画化にあたって細部がいくつか改変されていることが分かります。そしてそれらは、いずれも成功していると思うのですが、特に私が感心したのが、ヒデの家族のキャラクターの改変。
 原作では、父親はわりと無愛想で、母親はパンチパーマ(!)をかけていて鬼にそっくり、姉も鬼系で田舎のおばさんっぽい、という設定。しかし映画では、父・母・姉ともに明るく優しく、母と姉はなかなかの美人で垢ぬけていて‥‥と、まるで正反対。
 結果的に映画の方では、ヒデのアルコール依存症について、こう解釈できるようになっています。「優しい家族に甘えて生きてきた男の子が、恋愛によって初めて挫折を知り、それを引きずったあげく、アルコール依存症になった」。

 これは私としては非常によく分かるというか、腑に落ちます。特に、「優しい家族に甘えて生きてきた男の子→アルコール依存症」というところ。まあ要するに、身近にそういう感じの男性が何人かいまして。
 私の知る限りでは、母親や姉に大事にされて育った男性というのは、決して悪い人じゃないけど、基本的に甘えているところがあって、何かで挫折すると過剰にショックを受け、荒れる傾向がある(もちろん皆が皆‥というわけではないですが)。
 映画『ばかもの』は、そういうタイプの男性の破滅と再生を、丁寧にしかも生き生きと描いた作品として、グッときました。

 最後にひとつ。この映画でも、近年の金子作品の常連である螢雪次朗氏が、キラリと光っています。ワンシーンのみの出演ですが、ヒデの親戚のオジサン役で、悪気はないけど甥や姪に余計なことを言ってしまうという、どこの親族にも1人はいそうなオジサンを、絶妙に演じています。「螢さん、さすがやな~」と改めて思いました。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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