『それでも人生にイエスと言う』

公開題:『あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク』
2011年 監督:森山茂雄 脚本:佐野和宏 出演:みづな れい、倖田李梨、酒井あずさ、久保田泰也、川瀬陽太、本多菊次朗
シネロマン池袋にて上映中(11月8日まで)

 数日前に、シネロマン池袋にて鑑賞。森山監督の前作『アラサーよっこらしょっと!』(2010)と同じく、脚本が佐野和宏で、主演が「みづな れい」。
 『アラサー』の記事にも書いたように、佐野さんの脚本作の特徴は「センチメンタルで分かりやすい」ことだと私は思っていたのですが。今回は、そういう作品ではなかったです。過剰なセンチメンタリズムは排除されているし、観た人が自由に解釈できるような(良い意味での)曖昧さがある。

 (聞くところによると、佐野さんは昨年、大病を患ったりされて色々な変化があったそうで、もしかしたらそのことが作品に影響しているのかもしれません。しかし、詳しい事情を知らない私が勝手な推測をするべきではないので、こういう見方は今は、やめておきます。)

※以下の文章では、作品の結末に少し触れています。

 さきほど、「過剰なセンチメンタリズムは排除されているし、観た人が自由に解釈できるような(良い意味での)曖昧さがある」と書きましたが、それが最もよく表れているのが、終盤での、ヒロインが10年ぶりに父親と会うシーン。
 10年前のある出来事を大きな心の傷として抱えてきた彼女が、父親に語りかけます。「恨んでないよ」「淋しかったんでしょう?」などなど。ここで父親が綺麗な返事をして涙を流したりすれば、映画全体が綺麗に分かりやすくまとまるのでしょうが、そうはならない。詳述は避けますが、父親の反応は、ヒロインにとっても観客にとっても、かなり厳しいもの。結局、彼の内面が明かされることは無い。

 つまり、「解決」とか「救い」とか「納得」といったものは、無い。ヒロインだけでなく、彼女が旅の途中で出会う大きな問題を抱えた主婦にも、解決や救いは訪れない。
 ‥‥こう書くと、まるですごく暗い映画のようですが、そんなことはないです。全体を通してコミカルな味付けもしてあるし、何よりも最後の最後に、ヒロインからすべての登場人物と観客に対して、ある柔らかな贈り物がありますから。

 そういえば、まだストーリーの紹介をしてなかったですね。ひとことで言うと、ロードムービーです。序盤は、まさに公開題の『あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク』という感じ。ヒロイン・れい(みづな れい)が、ヒッチハイクしたトラックの運転手(久保田泰也)と、明るくアオカン。
 次に出会った主婦(倖田李梨)とは、孤独を分け合う美しいレズ行為を。立ち寄った居酒屋では、女将(酒井あずさ)や常連客の漁師(川瀬陽太)たちと出会い、女将とは何も無かったものの、漁師とは‥‥といった具合に、さまざまな人と出会い、セックスしたりしなかったり。テキ屋(本多菊次朗)からは印象的な言葉と、ある物をプレゼントされます。

 ところでその数々のセックス・シーン、各人物の生活や性格がよく表れていて、見応えがあります。ストーリー紹介では触れませんでしたが、女将とテキ屋の濡れ場なんて、ワケあり中年男女の色気が炸裂していて、本当に素晴らしい。
 あと、漁師が最初に自分のことを「ジェントルマン」だと言うのですが、これはあくまでも自称であって、実は‥‥ということが、セックス・シーンで表現されていたりします。
 
 これらのシーン、俳優さんたちの力量によるところも大きいですが、やはり監督の演出が上手いのでしょう。今回は全体的に、音楽の使い方やキャスティングもとてもよかった。
 鑑賞後に作品データを見て知ったのですが、(顔が映らない)父親役を実はアノ俳優さんが演じていた‥ということにも、「なるほどー」と唸りました。

 で、結論を書くと‥‥私、この映画、いいと思うし、個人的にも好きです。「解決や救いが無い」という点で評価も好みも分かれるでしょうが、私はその点こそが好きですね。
 「解決や救いは無い、それでも生きる」。私自身、ここ数年間、そういう気持ちにならざるを得ないことが多いせいか、妙に共感できます。

 最後に。佐野さんの作風が変わった、みたいなことを最初にやたら書きましたが、「変わってないなあ」と思う部分もあるんですよ。それは、原題の付け方。実に佐野さんらしい。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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