『異常性愛記録 ハレンチ』

1969年 日本 監督・脚本:石井輝男 出演:若杉英二、橘ますみ、吉田輝雄

 昨年テアトル新宿でリバイバル上映された際に見逃してしまい、先日ついに渋谷のシネマヴェーラで鑑賞。カルトな珍品だという噂を聞いていて、そのつもりで観たら、意外と普通の娯楽映画的な要素も入っている作品でした。どういうことかというと、ストーリーの骨格がとてもオーソドックスなのです。
 
 ヒロインは、バーのママ・典子。彼女は身勝手な深畑と別れて新しい男・吉岡と一緒になりたいのですが、深畑は決してそれを許さず、異様な執念で典子にまとわりつきます。やがて深畑と吉岡が対決する事態になり‥‥。
 
 つまり最も単純な表現をすると、三角関係の物語なわけです。そしてヒロインを取り合う2人の男も、ひとりは気色悪い男、もうひとりは紳士的な二枚目と、非常に対照的で分かりやすいです。結末も(ここには書きませんが)あらすじとしては、いかにもかつての娯楽映画にありがちなもの。
 しかし作品自体は、「複雑怪奇」と呼ぶに相応しい仕上がりです。
 
 まず「複雑」なのはストーリーの見せ方。時系列に沿った展開ではなく、現在進行形の部分と少し過去の部分とかなり過去の部分が、小刻みにいろんな順序で提示されます。だから観ていて、やや混乱します。
 
 そして「怪奇」な要素は、いろいろあります。メインはやはり、深畑のキャラクターでしょう。彼は典子の前に現れると、決まって気持ち悪い笑顔で「しあわせ?」と問いかけます。会話の際には、やたらと語尾に「だよ~ん」「だも~ん」と付けます。過剰な性欲の持ち主で、毎日典子の体を求めるだけでなく、金髪女性やゲイ・ボーイとも遊んでいます。ちなみに妻子持ちで、いちおう染物会社の社長。異様な面を持っていながら社会にちゃっかり適応しているというのが、よけいに怖いですよね。
 この不気味な人物像を、若杉英二が絶妙に怪演。顔が常にテカっていて、ヌラヌラしているのも素晴らしいです。また石井監督の演出も、若杉氏の姿に獣の雄叫びをかぶせたり、彼の鼻の穴をアップで映すなど、なかなか冴えています(最初黒い大きなものが映っていて「何だろう?」と思っていたら、徐々にカメラが引いていって、鼻の穴だと分かった次第)。

 もうひとつ「怪奇」なのは、作品全体のバランスを崩すほど長く挿入された、深畑の夜遊びシーン。まず、ディスコみたいなところで深畑とゲイ・ボーイズが踊っているとき、大勢いるボーイズたち全員が、順番にああだこうだと自己PRを展開。長い。これだけでも長いのに、さらに覗き部屋みたいなのが出てきたり、なんだかゴチャゴチャと店内の描写が続きます。実はこのあたり、ずーっと照明がチカチカ点滅していて、よく見えませんでした。あと、深畑とゲイの女王様がSMプレイに興じるシーンもかなり長かったような。
 
 ちなみに、ゲイ・ボーイズがらみの描写がなぜ異常に長くて派手なのか、私なりに考えてみました。まずひとつは、深畑のキャラクター(貪欲なまでに享楽的)を強調するため。もうひとつは、「観客の皆さんにゲイ文化や風俗をたっぷりお見せしよう」という作り手側のサービス精神。当時は今ほどその種のものが普及・浸透しておらず、多くの観客にとっては「未知の世界」だったので。そしてもうひとつは‥‥監督の趣味。これはまあ、何となく。

 とにかくこの映画を観て、「単純かつオーソドックスなプロット(あらすじ)からでも、細部の凝りようによっては複雑怪奇な映画が出来上がる」ということを、改めて感じました。

※ 以下は、結末に関する小ネタというか、余談です。ネタばれOKな方は、どうぞ。
 
 結末はいわゆるハッピーエンド、しかも勧善懲悪なわけですが、私は勝手にその続きを想像してしまいました。それは、「めでたく吉岡と結ばれ幸福をかみしめる典子だが、実は吉岡にも隠された一面があり、結局また男の異常な性癖に振り回される」というもの。吉岡があまりにもイイ男すぎるので、逆に怪しい感じがしたのです。
 もうひとつは、「死んだはずの深畑が蘇って、また2人を狙う」というホラー映画などでお馴染みのパターン。なにしろ彼はしつこいですからね。シリーズ化できそうです。「“だよ~ん”の声とともに、また奴が襲ってくる!」みたいな。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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