『ションベン・ライダー』

1983年 日本 監督:相米慎二 脚本:西岡琢也、チエコ・シュレイダー 出演:河合美智子、永瀬正敏、坂上忍、藤竜也、伊武雅刀、桑名将大、木之元亮

 シネマヴェーラの特集「子供たちの時間」にて。若い頃に観て以来、久しぶりの再見。相米慎二監督が、大ヒット作『セーラー服と機関銃』の次に撮った作品です。
 
 ストーリーは、「夏休みに仲良し中学生3人組が、ヤクザの抗争に巻き込まれた同級生を助けようと奮闘する」というもの。「ティーンエイジャーとヤクザ」という組み合わせは、『セーラー服‥』と同じですね。また、主演女優がラストで流れる主題歌を歌っている点も、その作詞・作曲が来生えつこ・たかお姉弟である点も、これまた『セーラー服‥』と同じ。
 つまり映画会社としては、「10代の子たちが劇場に詰めかけて大ヒット!」という結果を期待して、この企画を進めたのでしょう。で、どうだったかというと、残念ながら全くそうはならなかったわけです(まあ正直言って、私の目から見ても、この作品は一般ウケする映画ではないと思います)。
 
 要するにこの2本、企画の面でいろいろ共通項がありながら、作品としてはかなり違うものになっているのです。昔観た時は、その違いの原因がよく分からなかったのですが、今回はハッキリ分かりました。

 『ションベン・ライダー』は『セーラー服‥』に比べて、大人側の描写が重いのです。「中学生たちの夏休みの冒険旅行」という枠組みがあるにもかかわらず、大人たちの悲哀が過剰なほどに強調されている。
 シャブ中の中堅ヤクザ、彼と裏で繋がっている警官、2人組の下っ端ヤクザ。彼らは最初、自分がなかなかの切れ者で組織からも必要とされていると思っているのですが、しだいに自分が何者でもなく見放された存在であることを知り、挫折感や絶望感を抱きます。そしてこの感情を、藤竜也・伊武雅刀・桑名将大&木之元亮が的確に演じていて、特に藤さんと伊武さんの演技が素晴らしく、その名演をカメラが長回しでじっくり捉えていて‥‥。
 
 それはそれで本当に見応えがあるのですが、しかし、この映画の枠組みはあくまでも「中学生たちの夏休みの冒険旅行」なのです。その証拠に、「とっても○○なキ・ブ・ン!」というような、当時の若者言葉(?)を駆使した字幕が頻繁に出てきたり、少年少女たちが歌う楽しげな挿入歌が劇中で流れたりします。渋い大人たちの悲哀と、異様にポップな字幕や歌。このミスマッチ具合は、まさに「水と油」。
 もちろん、「大人たちの挫折や絶望を目の当たりにすることによって、子供たちが色々な感情を抱く」というのもこの映画の大きな要素だし、それがクライマックスでの、子供たちが『ふられてBANZAI』を歌い踊るシーンに結実するわけですが、やはりそれでも全体としてのバランスは悪いと思います。
 
 それに比べると『セーラー服‥』では、大人たちの悲哀はやや控えめに描写されているし、ヒロインは高校生なのでわりと大人に近いし、『ションベン・ライダー』での字幕や挿入歌のような露骨にポップな要素も無いので、大人側とヒロイン側の描写のバランスが取れています。うまく調和していると言ってもいいでしょう。

 そんなわけでこの『ションベン・ライダー』、もう少し大人側の描写を抑えて、同時にもう少し子供側のポップな要素を抑えれば、両方がうまく調和し融合するのではないかと。ただ、そうすると、この作品特有の何とも言いがたい奇妙な魅力が半減して、「普通の映画」に近づいてしまうのかもしれませんね。この映画は一部の評論家やマニアの方々の間で非常に評価が高く、今回の特集上映のチラシでも「傑作」として紹介されているのですが、それは普通でないからこその評価なのでしょうし。
  
 ちなみに、ここで私の個人的な評価を述べておくと、私自身はこの映画を「魅力的で面白い作品」だと思うものの、「傑作」だとは思いません。理由は、先に述べた通り「バランスが悪い」からです(私はそういうことも映画にとって大切だと思っているので)。総じて相米監督の映画には、「それぞれのシーンはとても魅力的なのに、全体的な構成や流れがやや崩れている」という傾向があるような気がします。
 実は私、学生時代に相米監督について文章を書いたのがきっかけで、その後たまにご本人とお話ししたりしていたのですが、あるとき私が『お引越し』について「構成が良くないのでは‥‥」というようなことを正直に申し上げると、監督は「オマエに言われなくても分かってるヨ」と仰っていました。ニヤニヤ笑いながら。それにしても、監督が亡くなってからもう6年も経つんですね。

 最後に、この映画について監督から直接お聞きした話の中で、印象に残っていることを1つ書いておきます。河合美智子について。
 当時『セーラー服‥』の監督の次回作ということで、主演女優を決めるオーディションに大勢の少女たちが集まったそうなのですが、その大勢の中から彼女を選んだ決め手は何だったのか、ということ。監督曰く、「自意識の隠し方が良かった」。
 
 つまり、他の少女たちは自意識が強くてしかもそれを露骨に漂わせていたけれど、彼女にはそういう雰囲気が無かったらしいのです。「オーディションに来るくらいだから多少の自意識はあったんだろうけど、あの子の立ってる姿とかにはそれが一切感じられなくて良かった。」と、監督は仰っておりました。そういえば、彼女はその後ずっと女優や歌手などを続けていますが、未だに芸能人っぽさが希薄というか、自分を実際以上に良く見せようというような無駄な気負いが感じられず、独特な魅力があります。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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