『ラブ ゴーゴー』

1997年 台湾 監督・脚本:チェン・ユーシュン 出演:チェン・ジンシン、リャオ・ホェイチェン、タン・ナ、シー・イーナン

 ロマンポルノやアンソニー・ウォン主演作の話題でブログを始めましたが、今回はまったく違うタイプの作品について書きます。つまり、裸も暴力も出てこない映画。さわやかで可愛らしい雰囲気の映画。しかしその奥底にはどうしようもない苦さや切なさが流れている、と私は思っています。タイトルは『ラブ ゴーゴー』。原題は『愛情来了』。
 
 太った眼鏡男子でパン職人のアシェンは、初恋の人・リーホアに再会してドキドキ。かなり太めでファッションが奇抜なOLのリリーは、ひょんなことから見知らぬ男性と電話でお喋りする仲に。さらに気の弱いセールスマンのアソン、ミュージシャン志望のシュウなど、台北で暮らす若者たちにそれぞれの転機が訪れ‥‥。
 
 非常にコミカルな映画です。特にリリーにまつわるその種の描写は秀逸。例えばリリーが友達と写真を見ながら男の品定めをするシーンで、我が身を省みず男たちの容姿やファッションを酷評しまくる様子も既に笑えるのですが、そこでの会話が、後々の大事なシーンでの笑いにつながる伏線になっているのです。しかもこれ見よがしではなく、さりげない演出で。
 またリリーが声だけで惚れる男の、留守電の応答メッセージが爆笑もの。普通なら「ただいま留守にしております、ご用の方は‥‥」というアレが、空前絶後のキザなセリフになっています。
 
 他にもアシェンが勤めているパン屋の人々のキャラなど、いろいろとコミカルな要素が散りばめられた映画なのですが、それでも観ている最中に何度か、泣きたくなるほどの苦さ切なさに襲われるのです。 
 
 私が一番それを感じたのは、アシェンの中学時代のエピソード。彼は事故で両親を亡くし、その孤独と悲しみを初恋の相手・リーホアに癒してもらうのですが、重要なのは、このとき実際には彼は彼女と音信不通になっていた、ということです(彼女は中学校入学前に突然姿を消しました)。
 つまりアシェンは、自分の空想の中だけでリーホアに元気づけてもらいながら、辛い時期を乗り切ったのです。このエピソードは現在のアシェンがリーホアに書いた手紙の中で語られ、アシェンの空想の中身は映像として出てくるのですが、そのシークエンスには、人が人を恋い慕うことの尊さと、人がどうしようもなく独りであることの痛みが漂っていて、胸を打たれます。
 
 監督・脚本はチェン・ユーシュン。彼のデビュー作『熱帯魚』も、コミカルな中に人の世の苦さが描かれている魅力的な映画でした。しかし残念ながら監督作品はこの2本だけで、その後は映画を撮っていないようです。とても実力のある方だと思うのですが。
 そうそう台湾の監督といえば、『クーリンチェ少年殺人事件』などが鮮烈だったエドワード・ヤンも、最近は新作の情報を聞きませんよね。ううむ‥‥。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク