『ザ・サムライ』

1986年 日本 監督・脚本:鈴木則文 脚本:志村正浩 出演:中村繁之、松本典子、大沢樹生、朝丘雪路、堀江しのぶ、菅原文太、宍戸錠
 
 体調が今ひとつという状態が、予想以上に長引いています。そのせいか、だんだん笑える映画が観たくなってきました。というわけで、今月の初めに書いた鑑賞予定を変更して、しばらくはコメディについて書こうと思います。まずは、『トラック野郎』シリーズの鈴木則文監督が80年代に撮った『ザ・サムライ』。中古ビデオにて鑑賞。
 
 この作品はマンガの実写化で、時代錯誤な男子高校生が巻き起こす騒動を描いた、学園アクション・コメディ。ハッキリ言って、ストーリーもギャグも相当くだらないです。
 例えば──主人公は高校生ながら、常に日本刀を腰に差している剣豪。しかし「女性のレオタード姿を見ただけで鼻血を出して失神する」という弱点があるため、彼と敵対するグループは、セクシー美女のナマおっぱいで主人公を攻撃! さあ、どうなる?──序盤はこんな感じです。 
 
 そして鈴木監督は、こういうくだらない内容を手間暇かけて、心血を注いで映像化しています。その点において、他の追随を許さない映画。(もちろん褒めてます。)

 まずアクション・シーンの充実ぶり。主人公が、何かというとすぐ刀を振り回したり時代劇風の妄想をしたりするので、殺陣シーンが多いのですが、これらがかなり本格的なのです。主演の中村繁之はきちんと訓練を受けたらしく、いい動きを見せてくれるし、友情出演の菅原文太は、大スターならではの迫力ある殺陣を披露。達者な斬られ役の俳優さんも大勢出演しています。
 また、主人公が日本刀を、ライバルの男子生徒がフェンシングの剣を持って対戦するという、変わったアクションも見もの。さらにクライマックスでは、銀行強盗グループが学園祭に乱入し、派手なガン・アクションやドタバタの追跡劇が展開。和風と洋風、両方のアクションが満載なのです。
 
 つぎにSFX。主人公にはなぜか「顔を激しく変形させる」という特技があり、人間技とは思えないほど瞼や唇をビヨ~ンと伸ばすのですが、この姿が特殊メイクによって表現されています。
 実はこれ、今や日本を代表する特殊メイク・アーティストとなった原口智生の、初期の作品。当然ながら、その頃の和製SFXとしては非常に良くできています。

 とにかく妙に凝った映画で、上記のアクションやSFXは、実はまだ序の口。私がいちばん感心したのは、「普通ならセリフで済ませる部分をいちいち丁寧に映像化している」ということです。  
 
 具体的には、主人公を含む4人の生徒たちが、学園祭で上映する自主映画の企画会議をするシーン。それぞれが自分の作りたい映画の内容を説明するのですが、その内容が全て実写映像として画面に出てくるのです。つまり、映画内映画として4本もの短編映画が次々に登場するわけです。
 しかも題材は「野口英世」「シンデレラ姫」「からくり屋敷を舞台にした時代劇」「SFスーパーアクション」と、セットや衣装などに凝らなければいけないモノばかり。まあさすがに部分的にはチャチなところもありますが、全体としてはなかなか豪華で、特にからくり屋敷の時代劇は非常に本格的です。

 『日本映画の現場へ』(筑摩書房)という本によると、この『ザ・サムライ』にお金をかけすぎたのが原因で、製作した鈴木監督の会社は当時、大赤字を背負ったとのこと。
 芸術映画やメッセージ色の強い映画ではなく、アクション・コメディのために自分の会社を犠牲にする監督は、なかなか居ないでしょう。まさに壮絶かつ稀有な娯楽映画魂。ここ数年、特集上映やDVD発売など、鈴木監督を再評価する動きが活発になっているのも大いに納得できます。 
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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