『ヒロ子とヒロシ』

(成人映画館での公開タイトルは『痴漢電車 びんかん指先案内人』)
2007年 日本 監督:加藤義一 脚本:城定秀夫 出演:荒川美姫、なかみつ せいじ、岡田智宏、サーモン鮭山、佐々木基子、華沢レモン、佐倉萌、柳東史、横須賀正一

 先週、ポレポレ東中野で行われていた特集上映「R18 LOVE CINEMA SHOWCASE Vol.4」にて鑑賞。この作品はピンク映画ファンの間で非常に評価が高く、専門誌「PG」の「2007年ピンク映画ベストテン」でも1位に選ばれています。しかし私自身は、観ていてあまりノレませんでした。
 ただ急いで付け加えておくと、私は、この映画の中で痴漢行為が一種のコミュニケーションとして描かれていることを、批判したいわけではありません。そういう痴漢についての道徳的な問題云々ではなく、あくまでも作品として、ストーリーの細部にやや釈然としないものを感じるのです。

※以下の文章では映画の結末に触れています! ネタばれOKの方だけお読みください。
 
 まずこの映画、全体的な構成はとても面白いと思います。ヒロ子(荒川美姫)とヒロシ(なかみつ せいじ)の電車の中での出会い→2人のここ数年間のダメ人生→痴漢行為による不思議なコミュニケーション→それぞれの前向きで新たな出発、という流れに加え、ヒロシがヒロ子に触るだけでなくヒロ子もヒロシに触るという点で、「痴漢」よりも「交流」を感じさせてくれるし、2人が結ばれることなく互いの顔さえ知らないまま別れるというのも、しみじみしていてイイです。

 しかし。細かいところがちょっと引っかかるのです。特に、ヒロ子の好きだった同級生に関する部分。
 
 ヒロ子は高校時代、同級生のイイダ(岡田智宏)に恋をし、彼がひとりでサッカーの練習をしている姿を、物陰からこっそり見守ったりしていました。ある日彼女は思いきって、イイダの机にラブレターを入れようとします。ところが間違えて、隣のイケダ(サーモン鮭山)の机に入れてしまい、イケダとデートをする羽目に。
 それからというもの、変態っぽいイケダから頻繁に性行為を迫られ、気弱さゆえに断れない彼女は、学校の中でもエロいことをされてしまいます。卒業後、イケダから逃げるように上京した彼女ですが、東京での生活もうまくいきません。しかしヒロシと出会い、しだいに明るく生きられるようになってきた頃、ウェイトレスとして働いている喫茶店に、イイダ(好きだったほう)が客としてやって来ます。嬉しい再会。で、このときの2人の会話。
 「ヒロ子ちゃん、昔、僕がひとりで練習してるのを、じっと見ててくれたよね」「え?! 知ってたの?」「うん、だって僕、あの頃からヒロ子ちゃんのこと好きだったから」(言い回しは違うかもしれませんが、だいたいこんな内容)。そして2人のセックス・シーンへとつながり、最終的には彼らは一緒に幸せそうに暮らしていて、となるわけですが。

 あのう‥‥イイダがヒロ子のことを高校時代から好きで、当時彼女の様子を意識していたのなら、彼女がイケダに迫られていることに気づいたはずですよね。もしそこまで気づかなかったとしても、彼女が何かで困ったり悩んだりしていることぐらいは分かったはず。
 それなのに、彼女を助けるどころか声をかけることすらせず、何年も経って明るくなった彼女を見てから告白するなんて、このイイダくん、大した男じゃないと思うんですけど‥‥。
 
 これはやはり、「ヒロ子がイケダの机にラブレターを入れてしまった次の日に、イイダは東京に引っ越してしまった」というような展開の方が、よかったんじゃないでしょうか。そうすれば、イイダの告白に誠実さが感じられるし、2人が東京でうまい具合に再会することの不自然さも和らぐし。

 それとヒロシに関して。「前向きに生き始めたヒロシが小説を書いてメジャーな文学賞を獲り、その受賞作がベストセラーになった」という部分。
 ここは、「マイナーな文学賞を獲って一部で評価されたが、あまり売れなかった」という展開にした方が、彼の妻(佐々木基子)の「しばらく家出していたが彼の本を読んで戻ってきた」という行動が、味わい深くなったのでは? ちょうど彼女には「学生時代から文学好き」という設定もあるのだし。
 そして「ヒロ子もこの本を読んだ」という展開は、無くてもよかったような気がします。

 さて、お気づきの方もいるかもしれませんが。今回の文章のイイダくんに関する指摘の部分、「‥‥」が多いというか、やや歯切れが悪いですよね。実は、今ひとつ自信が無いのですよ。この映画を観たとき大事な箇所を見逃し(聞き逃し)たのかもしれない、という不安があって。
 私も、ヒロ子ほどではないにしても気が弱いようで、色んな方々が激賞している映画を批判する場合は、少しビビってしまうのです。そんなわけで、この『ヒロ子とヒロシ』をご覧になった方、もしよろしければイイダくんに関する私の指摘が適切かどうか、ご教示ください。

《追記:のちに、ある読者の方からこの件についてメールをいただきました。詳細はこちらの記事をどうぞ。》
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

最新記事
カテゴリー
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
RSSフィード
リンク