『自虐の詩』

2007年 日本 監督:堤幸彦 脚本:関えり香、里中静流 出演:中谷美紀、阿部寛、遠藤憲一、カルーセル麻紀、西田敏行、岡珠希、丸岡知恵、アジャ・コング

 先月末、新文芸坐にて鑑賞。業田良家による同名の4コマ漫画の実写化。
 元ヤクザで無職のイサオ(阿部寛)と同棲している幸江(中谷美紀)は、パート先の店長(遠藤憲一)に言い寄られても全くなびかず、とにかくイサオにベタ惚れ。そんな彼女の現在と苦難に満ちた過去とをコミカルに描きつつ、人生についてシリアスなテーマを打ち出した映画です。

 私はこの原作が昔からわりと好きで、何度か読み返しているのですが、つくづく実写化が難しいマンガだと思います。例えば、作品の中で繰り返しの定番ギャグになっている、イサオのちゃぶ台返し。イサオは何かというとすぐ「でえ~~い」とちゃぶ台をひっくり返し、その度にちゃぶ台の上のご飯やおかずが派手に飛ぶわけですが。
 これ、業田良家の簡略かつユーモラスな絵柄で描くからこそギャグになるのであって、実写で生身の人間がやると、どうしても「暴力的」「食べ物がもったいない」という印象になってしまいます。そこで映画では、このちゃぶ台返しをハイスピードカメラで撮影し、スローモーション風に演出。結果として生々しさが和らぎ、コミカルな雰囲気が生まれています。

 もうひとつの実写化が難しい要因は、ヒロイン・幸江の顔。原作の幸江は、極端に目が細く(常に目を伏せているように見える)しかもすごい鷲鼻で、子供の頃から周囲の人に「ドラキュラ」だの「ブス」だの言われ続けています。そしてそれが、ほろ苦いながらも微妙なギャグになっています。
 これもまあ、マンガだから成立するわけで。たぶん現実にそういう顔の女性はいないし、もしいたとしても、その女性がスクリーンの中で「ブス」だの何だの言われたら、笑えるどころか観ていて辛くなるでしょう。
 
 こちらに関しても、映画版のスタッフは「技」を使っています。それは、原作の幸江とは似ても似つかない美人・中谷美紀をキャスティングするということ。もちろん彼女が選ばれたのは、堤監督とTVドラマで組んだことがあるからとか有名女優だからとか色々あるでしょうが、いずれにせよ、幸江を演じる彼女がスクリーンの中で「ブス」と言われても、観ていて辛くなることはありませんでした。それどころか「え、どこが?」てな感じ。
 というのも彼女、一応ブスメイクとしてホクロやソバカスを顔に付けてはいるものの、目鼻立ちはいつもと同じで完璧に整っているので、まだ充分美人なのです。また、2人の長身男優(アベちゃんとエンケン)に囲まれているため非常に体が小さく見え、ちょこまかと動き回る姿は、まるで愛らしい小動物のよう。つまり、とても可愛いのです。

 そしてこの「幸江が外見的に可愛い」ということが、作品を観やすくしていると同時に軽くしてしまったと、私は思います。なぜなら映画・原作ともにラストで幸江が、人間の「幸と不幸」についてあるメッセージを打ち出しているのですが、原作の幸江の方が(「ブス」であるがゆえに)背負っているものが重く、メッセージにも重みがあるからです。
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サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
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