『ブレス』

2007年 韓国 監督・脚本:キム・ギドク 出演:チア、チャン・チェン、ハ・ジョンウ、カン・イニョン  
シネマート六本木にて上映中
詳しくは→http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/index.html

 2週間ほど前にシネマート六本木にて鑑賞。ストーリーは、夫に浮気されている主婦が、自殺を繰り返す死刑囚の男に魅了されて面会を重ね、次第に2人は惹かれあうが‥‥というもの。
 
 キム・ギドク監督の映画は基本的に好きです。どれも全部、というわけではないですが、奇妙なバランスの上に成り立っている、その成り立ち方が独特で面白いので。この『ブレス』も、最初はわりと現実的な設定で始まるものの、だんだん現実にはあり得ないような世界へと突入。
 
 ヒロインの主婦が死刑囚と面会する際、最初は透明の板越しに話しかけるだけだったのが、次は面会室の壁一面に巨大な風景写真を貼り付けて大声で歌謡曲を歌うようになり(未見の方には何の事か分からないと思いますが本当にそうするのです)、さらには死刑囚と直接触れて抱き合ったりします。
 もちろん現実には、刑務所の面会室でこんなことはできないでしょう。だからこういう作劇を「リアリティが無い」と批判する方も居るかもしれませんが、私は一種のファンタジー映画だと解釈しているので、むしろ面白く感じるのです。
 
 そしてこのファンタジーは、甘美なものではありません。かなり痛々しく危ういです。思うにヒロインの行動の異様さもさることながら、演じる女優さんの外見の「平凡さ」が、そういう印象をさらに濃くしているのではないかと。
 
 例えばF・トリュフォー監督の『アデルの恋の物語』で、若き日のイザベル・アジャー二が狂気に陥る女性を迫真の演技で表現しているのですが、今ひとつ痛々しい感じがしません。理由は多分、彼女が美しすぎるからでしょう。スクリーンに映る美女の狂気というのは、少しばかり甘美で、瞬間的にはウットリと見惚れてしまうほどなのです。
 また、J・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』でのジーナ・ローランズ。彼女の場合、邦題どおりの「こわれゆく女」を見事に演じていて、しかも美人顔ではないのですが、やはり今ひとつ痛々しさや危うさが足りないような気がします。これは彼女の貫録や力強さによるものでしょう。もともとの顔立ちや体つきなどが非常にガッチリしていて逞しいので、どうしても安定感があるのです。
 
 この2人に比べると、『ブレス』の主演女優チアの容姿はきわめて平凡。特に美しいわけでもなく貫禄があるわけでもなく、本当にその辺の主婦のよう。だから彼女が「常軌を逸した行動に出る主婦」を演じると、甘美さも安定感も無く、ひたすら正視しづらい痛さと危うさが漂います。

 しかも痛さと危うさを濃くしている要素はもう一つあって、それはチアの歌声。彼女の歌唱シーンが多いうえに長いのですが、その歌が絶妙にヘタなのです。おそらく演技でわざとヘタに歌っている‥‥というか、監督がそうさせたのでしょう。このヘタさ、実に滑稽で哀切。効いてます。

≪オマケ情報≫シネマート六本木では今週の金曜まで、ギドク監督の『悪い男』(2001)も上映されているようです。こちらも、私の判断では一種のファンタジー映画。とても好きな作品なのでおススメします。ただ、見方によってはとんでもなく非道な映画でもあるので、そういうのが苦手な方はご覧にならないほうがいいですよ(←これを読んで却って観たくなった、という方におススメ)。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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