『片腕マシンガール』

2008年 アメリカ 監督・脚本:井口昇 出演:八代みなせ、亜紗美、島津健太郎、穂花、西原信裕、石川ゆうや、川村亮介、デモ田中、菜葉菜、諏訪太朗
池袋シネマ・ロサ、シネマート心斎橋などで上映中  
公式サイト→http://www.spopro.net/machinegirl/

 数日前に、シアターN渋谷にて鑑賞。このブログで何度か言及してきた井口昇監督の新作。今回の作品は、撮影場所やスタッフ・キャストの面では「日本映画」と言えそうですが、アメリカの会社が100%出資しているため「アメリカ映画」となっています。
 
 内容は、ひとことで言うとタイトルどおりで、失くした片腕の代わりにマシンガンを装着した少女・日向アミ(八代みなせ)の物語。
 なぜ片腕を失くしたのか。弟・ユウ(川村亮介)をいじめ殺した主犯である木村翔(西原信裕)に復讐しようとして、翔の両親(島津健太郎・穂花)から残虐な拷問を受けたから。なぜマシンガンを装着したのか。息子・タケシを翔に殺され、アミと共に闘う決意をしたミキ(亜紗美)の夫・スグル(石川ゆうや)が、精魂こめて作ってくれたから。そして、木村親子に復讐するため。

 この作品では、「いじめによる殺人」「被害者遺族の復讐心」など、普通ならシリアスな社会派映画で扱う題材を、あえて娯楽映画の枠組みで描いています。アメリカ資本なので残酷描写の規制が少ないこともあり、銃は乱射するわ、血しぶきは大量に飛び散るわ、人体はバンバン切断するわで、アクションやスプラッターの要素が満載。
 また、木村親子の手下(デモ田中)が拷問で顔に釘をたくさん打たれ、『ヘルレイザー』状態で「こいつはキツイわ~」と呑気に感想を述べるなど、コミカルな箇所も多数。さらにはアメリカ側からの要請で、現代劇なのに、忍者と手裏剣と(絵に描いたような)ヤクザという、「おいおい」ってな感じの日本描写もしっかり入ってます。スシやテンプラも派手に登場。
 
※以下の文章では、映画の結末に少し触れています。

 というわけで、いわゆる「ふざけた映画」っぽいですし、実際に観てそう思う方もいるでしょう。しかし私はこれ、かなりシビアな映画だと思います。シリアスというよりも、シビア。
 なぜならまず、悪役が最後まで全く改心しないから。卑劣ないじめを繰り返す翔にも、彼を溺愛する両親にも、後悔の念や良心の呵責など一切ありません。いくらアミやミキが悲壮な決意で激しい怒りをぶつけても、木村親子の態度には全く変化ナシ。
 多分、日本のある程度メジャーな会社の映画やTVドラマだったら、こういうストーリーの場合、親子3人のうち誰かが少しくらいは改心するでしょう。「若者や子供に希望を託す」という意味で、親たちはダメだけど息子にはささやかな変化が‥‥とか。しかし『片腕マシンガール』には、そういう展開はありません。

 もうひとつシビアだと思ったのは、「いじめる側の親たち」の描き方。翔と一緒にいじめをしている少年で警察一族の息子が居るのですが、彼の親も翔の親と同じく、我が子だけが大事。つまり、よその子や他人は、どーでもいい。我が子がよその子をいじめようが殺そうが、ひたすら我が子をかばい、守る。そして我が子が殺した少年の姉である少女に対し、激烈な暴力をふるう。
 こういう親たちの言動が極端に誇張された形で描かれていて、ほとんどギャグになってはいるものの、真面目に捉えるとやはりシビアだなあ、と。またその親たちが、何度も「子どもを守る!」とか「家族を守る!」というようなセリフを言っていたのも印象的。一般的には美しいとされているこの種の言葉が、非常にドス黒いものとして聞こえました。
 
 観ていてチラッと思い出したのが、ずいぶん前に読んだ本(切通理作氏がウルトラマンの脚本家たちを論じた『怪獣使いと少年』)に載っていた、市川森一氏の発言。市川氏は幼い頃に実母と死別して継母に育てられ、その継母は、自分の実の子だけを愛し、市川氏を一貫していじめぬいたそうです。そういう歪んだ愛について、市川氏は次のように語っています(長い発言からの抜粋)。
 「実の子への愛と、他人の子への憎しみ。それが一人の人間のなかに平気で共存するということ」。「愛がすべて美しいと思ったら大間違いなんですよ」。これらの言葉を思い切り戯画的に映像化すると、『マシンガール』のようになるでしょう。

 この作品は基本的に娯楽映画なので、上記のようにあれこれ考えるのは野暮だとも思います。しかし私は井口監督の作品を観るといつも必ず、楽しく笑うとともに深刻な気持ちにもなるのです。
 今気づいたのですが、私は以前『恋する幼虫』について書いたときにも、「シビア」という言葉を使っていますねえ。いや本当に、井口作品に漂う人生観・人間観はシビアだと思いますよ。彼のあのSDキャラのようなホノボノした外見の裏には、かなり冷徹な思考が存在するのではないでしょうか。
プロフィール

サイボク

Author:サイボク
60年代後半生まれの♀。
東京在住。
twitter.com/saiboku_ya

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